米の中東和平案/国際合意無視が甚だしい

 トランプ米大統領が発表した中東和平案は、イスラエルの占領地ヨルダン川西岸に建設された入植地をイスラエルの主権下にあると宣言し、帰属が争われてきた聖地エルサレムは「分断せず、イスラエルの首都とする」と表明した。積み上げられてきた国際合意の無視が甚だしい。

 1967年の第3次中東戦争直後に国連安全保障理事会決議がイスラエルに対して、西岸など占領地からの撤退を求め、また国際社会は長年東エルサレムを「将来の独立国家の首都」と位置づけるパレスチナ側の意向を重視してきた。

 イスラエルのネタニヤフ首相は、和平案を「歴史的」と高く評したが、和平案は国際的に広く受け入れられてきたこうした認識を簡単に覆してしまったという意味で、確かに歴史的である。しかし、この案は和平交渉の基礎とはならないだろう。

 パレスチナ自治政府のアッバス議長は和平案を「陰謀」と拒否しているほか、過激派組織「イスラム国」(IS)はこの案の発表直前にイスラエルとユダヤ人を標的とした攻撃を始めると予告。イランも「パレスチナ人とイスラム諸国への『世紀の裏切り』」と非難し反米、反イスラエル闘争をあおる不穏な動きをしている。パレスチナ問題を巡る暴力の再発が懸念される。

 和平案は、パレスチナ国家を樹立する「2国家共存」を堅持している。だがエルサレムを「不可分の永遠の首都」とし、またヨルダン川西岸の占領地にユダヤ人の入植を進めて領土であることを既成事実化してきたイスラエル側に露骨に立つものだ。

 トランプ大統領は就任以来の3年間で、(1)エルサレムの首都認定(2)米大使館のテルアビブからエルサレムへの移転(3)第3次中東戦争で同じく占領したゴラン高原のイスラエル主権認定(4)ヨルダン川西岸へのユダヤ人入植活動を「国際法違反と認めない」と表明する-など、矢継ぎ早に親イスラエル政策を実行してきた。

 これらはいずれも過去の米政権がイスラエルの希望を把握しながらも、中東政策における公平性維持の観点から、タブー視して踏み切らなかったものばかりだ。トランプ大統領は、米国が演じてきた中東和平交渉における「中立、公平な仲介人」という姿勢をかなぐり捨てたことになる。

 問題なのは、トランプ大統領が中東和平案の発表に当たり、パレスチナ側の反発から実現不可能と予測しながらも、イスラエルに親近感を覚える米国のキリスト教保守派の意向をくんで踏み切ったとみられることだ。11月に迫る米大統領選での再選に向けた票固めの性格が色濃い。

 これでは、今回の和平案が実現すれば、パレスチナ独立国家が管理する土地は現在の2倍以上となるといった、パレスチナ側にアピールしている点も真剣には受け入れられないだろう。

 情報技術(IT)や軍事技術を武器に急成長するイスラエルは、中東では圧倒的な存在で、パレスチナや周辺国との実力差は歴然としている。サウジアラビアやエジプトなどのアラブ有力国も今や親イスラエルに転じている。だが強いからと言って何でも要求を認めてしまえば、国際規範は崩れ、世界は混乱に陥るだけであろう。

2020年1月30日 無断転載禁止