海自艦が中東へ/不測の事態への対処は?

 中東海域での日本関係船舶の安全を確保するために情報収集活動を行う海上自衛隊の護衛艦「たかなみ」が出航した。2月下旬に現場海域に到着、1月から任務に就いたP3C哨戒機と共に活動する。国会承認の必要がない防衛省設置法の「調査・研究」に基づく派遣で、不測の事態が生じた場合は武器を使用できる海上警備行動を発令する。

 「調査・研究」での長期の海外派遣は初めてだ。防衛相の命令だけで実施できる法律の適用は、歯止めなく自衛隊の海外活動を広げることにならないか。海上警備行動で実施できる活動は限られる。派遣の閣議決定から出航までに中東情勢は大きく動いたが、政府の検討と説明が尽くされたとは言い難い。

 米国とイランの全面衝突は回避されたものの中東情勢の緊張は続く。不測の事態への対処に政権は責任を持てるのか。派遣には疑問点が多い。

 まず活動の実効性を考えたい。最も重視すべきなのは原油の安定供給だ。日本は原油輸入の約9割を中東に依存しタンカーで運搬している。危険が指摘されるのは昨年6月に日本の海運会社のタンカーが襲撃されたイラン沖のホルムズ海峡やペルシャ湾だ。

 だが今回の対象は、これらの海域を外し、米国主導の有志連合にも参加しない独自派遣としている。友好関係にあるイランへの配慮だろう。しかし、この活動が危険海域を通るタンカーの安全確保に本当に役立つのか。自民党内には特別措置法を制定して取り組むべきだとの声がある。

 一方、立憲民主党など野党側も派遣には新法が必要だと主張する。不測の事態への備えが不十分だからだ。海上警備行動で武器を使って保護できるのは日本籍船に限られる。日本人が乗る外国籍船などの場合は攻撃する船に接近したり、警告音を出したりして対応するだけだ。

 情報の取り扱いも問題になろう。政府はバーレーンの米軍司令部に連絡要員を派遣、米軍などと情報を共有する。親イラン勢力から見れば米軍と一体で、攻撃対象となる恐れはないか。河野太郎防衛相は「自衛隊が武力紛争に巻き込まれる危険があるとは考えていない」と国会で答弁したが、なぜ言い切れるのか。

 海自派遣を閣議決定したのは昨年12月末だった。その後、米軍がトランプ大統領の指示でイラン革命防衛隊の司令官を殺害するという重大な事案が起きたが、安倍晋三首相は国家安全保障会議(NSC)も開かないまま、年頭の記者会見で派遣方針を変更しないと表明した。「自国の船は自分で守るべきだ」とするトランプ氏の要求に応えるための「派遣ありき」の対応だったのではないか。

 今回の派遣では国会報告を義務付けた。ただ菅義偉官房長官は閣議決定文書を議員に配布したことをもって「報告」だと説明している。通常国会での議論も始まったばかりだ。国会軽視と言わざるを得ない。

 2018年に策定されたエネルギー基本計画は、原油の中東依存を脱するため「資源外交の多角的、戦略的な展開」をうたっている。「9割を中東に依存している」と現状を強調して海自派遣の理由付けとするのは政府の怠慢ではないか。危険海域での真の安全確保には、外交努力を尽くすことが求められる。

2020年2月5日 無断転載禁止