米大統領弾劾裁判で無罪/分断は修復可能なのか

 米国の分断がここまで深まったのかと驚く。4日のトランプ大統領の一般教書演説に続いて、史上3人目となった大統領弾劾裁判の5日の無罪評決は、トランプ氏を支持する与党共和党と野党民主党の激しい対立を浮き彫りにし、この大国に入った修復不能とも思える亀裂を見せつけた。

 今年は大統領選の年であるため与野党対立は予想されてきた。だが、これでは11月の大統領選の本番やその後も、一部の政治評論家が語る「内戦のような混乱」が続くという懸念の声に、真剣に耳を傾けざるを得ない。

 一般教書演説では、トランプ氏が経済や外交面での「実績」を羅列し、再選を意味する「あと4年」の大合唱で共和党議員が応じた。年に1回の最も重要な大統領演説が選挙集会に様変わりした印象を与えた。

 トランプ氏は自らの熱烈な支持者である右派ラジオ司会者に文民最高位の「大統領自由勲章」を授けると演説で発表。メラニア夫人が議場に招待された司会者に勲章を渡した。これはやり過ぎだろう。

 これに対して、演説終了後のトランプ氏の背後で民主党のペロシ下院議長が、トランプ氏の演説原稿を全米に中継されるテレビカメラの前で破った。一般教書は議会が大統領を招待するが、招待する側の下院議長がゲストの大統領にこうした仕打ちをするのはまさに異例だ。ペロシ氏は、演説はうそが満載され議会を侮辱したと理由を説明している。実に激しい非難である。

 弾劾裁判では、焦点のウクライナ疑惑の内実を知るとみられるボルトン前大統領補佐官が証言に応じる意向だったにもかかわらず、共和党指導部は召喚に同意しなかった。事実が明らかにならないまま職権乱用と議会妨害の双方で無罪評決が下った。

 米メディアによると、ボルトン氏はトランプ氏から、ウクライナへの軍事援助は政敵であるバイデン前副大統領(民主党)の疑惑捜査を条件とすると直接伝えられたと明らかにした。事実であれば、ウクライナには汚職捜査の徹底を求めただけだというトランプ氏の主張が崩れる。

 1998年に発覚したクリントン米大統領の不倫もみ消し疑惑の弾劾裁判でも、党派対立が表面化したが、クリントン氏は不倫の事実を認め、上院は関係者の証言を得た上で無罪評決を下した。今回の弾劾裁判の審議は明らかに不十分だった。

 弾劾裁判では共和党重鎮のロムニー上院議員が、トランプ氏は国民の信頼を裏切ったと述べて同党から唯一の造反である有罪の票を投じた。党内から脅しもあったが、自らの良心に従ったと言う。だがロムニー氏の行動が米政治の救いとなるかは分からない。

 民主党内の大統領候補指名争いは、トランプ氏の挑発に乗せられたように、政治経験が浅い38歳のブティジェッジ前サウスベンド市長や、社会主義的な政策を掲げる78歳のサンダース上院議員に注目が集まり、穏健なバイデン氏は埋もれている。

 11月3日の大統領選本番に向けて両党の中傷合戦や対立をあおるポピュリズム(大衆迎合)型の選挙戦が予想される。投票後も開票結果を受け入れるかどうかで混乱が生じる懸念もある。米国民は過熱する政治に距離を置き、冷静さを失わないでほしい。

2020年2月7日 無断転載禁止