北方領土の日/国民に現状の説明を

 ロシアとの北方領土返還交渉は行き詰まり、打開の見通しが立たないのが現状ではないか。安倍晋三首相は「北方領土の日」に開かれた「北方領土返還要求全国大会」で、「双方が受け入れられる解決策を見つけるため交渉を着実に前進させる」と強調した。

 ただ、これまでの交渉で目立つのは「双方の妥協」ではなく「日本側の譲歩」だ。大会で採択したアピールは昨年と同様、それ以前のアピールにあった北方領土の「不法占拠」という表現を使わなかった。ロシアへの配慮だろう。

 首相とプーチン・ロシア大統領は2018年11月の会談で、1956年の日ソ共同宣言を基礎に交渉する方針で合意した。56年宣言は平和条約締結後に歯舞、色丹を日本に引き渡す「2島決着」だ。「国後、択捉を含む4島の帰属問題」を解決するという従来方針からの大きな譲歩と言える。だが、それでも交渉は進まず、逆に、基本的な立場を巡る日ロ間の隔たりが明確になっている。

 首相は期待感をあおるような決意をアピールするのではなく、膠着(こうちゃく)状態にある現状と今後の交渉方針を国民に誠実に説明すべきだ。外交には国民の支持が欠かせない。

 首相はプーチン氏とこれまでに27回も会談している。先日の参院予算委員会では、5月にモスクワで開かれるロシアの対ドイツ戦勝75年式典に合わせた訪ロを検討する考えを示し、領土問題解決には「首脳同士の交渉が不可欠だ」と述べた。

 しかし、日ロ間の対立点は首脳レベルでも打開が難しいものだろう。ロシア側は、北方領土が第2次大戦の結果として正式にロシア領となったと認めるよう要求。引き渡した領土に、日米安全保障条約に基づいて米軍が展開することに警戒心も示している。

 さらに昨年9月の退官まで日ロ交渉に携わった谷内正太郎前国家安全保障局長は、ロシア側が、まず領土問題を盛り込まない平和条約を締結し、その後に領土問題を議論する「2段階論」を提起していると明らかにしている。

 プーチン氏は2018年9月に、前提条件抜きの平和条約締結を首相に呼び掛けたことがあった。その主張が実際の交渉でも続いているのだろう。いずれも日本側には受け入れがたい要求だ。

 谷内氏は日ロ交渉が進まない理由に「米ロ関係の悪化」を挙げ、米国に従う日本にロシアが譲歩する考えはないと指摘、領土交渉の「展望は開けない」とも述べている。

 首脳交渉で実現したこともある。航空機による元島民の墓参は確かに一つの成果だ。ただ北方領土での共同経済活動は具体化が遅れている。首相は返還要求大会で、共同経済活動の「事業化の実現に向けて精力的に取り組む」と述べたが、それが領土返還にどうつながるのかは不明確だ。

 「次の世代に先送りすることなく、私とプーチン氏の手で問題を解決する」と首相は繰り返し強調する。ただ首相の自民党総裁としての任期は来年9月までだ。一方、プーチン氏は憲法を改正し、24年の大統領任期切れ後も権力を維持しようとしている。交渉に臨む基盤はどちらが強いのかは明らかだろう。

 交渉の難しさは理解できる。だが何を最終目標に定めて交渉を進めるのか。首相は国民に明確に示すべきだ。

2020年2月8日 無断転載禁止