検事総長人事/国民の信頼を得られるか

 通常なら勇退しているはずの検察幹部を特別扱いで定年延長した上、組織のトップに据えるのだろうか。

 7日に定年を迎える予定だった東京高検の黒川弘務検事長について政府は1週間前の1月31日、唐突に半年間の「勤務延長」を閣議決定、業務を続けさせている。来年8月に定年を迎える稲田伸夫検事総長が定年前に退任し、その後任にするためとみられている。

 他に有力な候補者がいたこともあり黒川氏の勇退確定とみていた法務・検察関係者の間には衝撃が広がり、国会でも野党が「恣意(しい)的な人事」と追及している。

 定年延長は検察庁法に定めはなく、黒川氏が検事総長になった場合、安倍政権主導による極めて特異な人事となる。

 政治家の不正摘発が使命である検察は公正であるだけでなく、政治的に独立していることも求められる。そんな組織に安倍政権が介入していく発端になりかねない。

 仮に政権側に、その意図がないとしても、黒川氏とその指揮下の検察に忖度(そんたく)が生まれる恐れがある。安倍政権は既に、業務、事業の性格上、政治からの中立性が求められる内閣法制局やNHKのトップに、自らの意向が通じやすい人物を充てる人事を行ってきた。

 法律の解釈、公的な放送、果ては捜査から起訴まで強力な権限を持つ検察にも影響力を及ぼすことになるのか。

 独立的、中立的な機関が正常に機能することは民主主義の必要条件である。これ以上の介入は悪影響が大きすぎる。「黒川検事総長」はあってはならない。

 森雅子法相は国会答弁などで定年を延長する理由について「重大かつ複雑、困難な事件の捜査・公判に対応するため、黒川氏の指揮監督が不可欠だと判断した」とする一方、「将来の人事が理由ではない」と述べた。

 問題点はいくつもある。まず、根拠だ。検察官は国家公務員だが、権限の特殊性などから特別法の検察庁法によって一般の国家公務員より厚い身分保障が与えられている。その中で定年は「検事総長は65歳、検事長を含む検察官は63歳」と定められているが、延長については記されていない。

 森氏は「特別法に書いていないことは一般法の国家公務員法が適用される」などと釈明している。しかし、10日の衆院予算委員会で、山尾志桜里氏から、定年延長は検察官には適用されないとした過去の政府側答弁を突きつけられ、立ち往生する事態に陥った。

 黒川氏の能力、手腕を高く評価する向きもあるが、今回のような安倍政権の介入が疑われるようなプロセスで選ばれれば、いかに黒川氏が独立性を守ろうとしても国民から信頼は得られない。

 安倍晋三首相は「法務省の人事だ」と繰り返しているが、定年延長の閣議決定は内閣として行っており、安倍首相にも説明責任がある。

 森友・加計学園問題などを受け、「李下(りか)に冠を正さず」という姿勢で政権運営すると安倍首相は誓っている。

 今後、黒川氏を検事総長に就けることは、国民に対する誓いを破り、重ねて「李下に冠を正す」ことになることを認識すべきである。

2020年2月13日 無断転載禁止