世事抄録 冬の奇跡

 暖冬であった。例年にない穏やかな日々はやがて来る天変地異のプレリュードだろうか。そんな中、1月のある日は台風並みの暴風に見舞われた。夜半に目覚め、嵐が過ぎるのをまんじりともせず待った。

 翌朝、庭に置いていた庭木のくずを入れる布製籠が消えていた。軽いとはいえ、人家に被害を与えていないか不安になった。15年来の愛用品でもある。その日から散歩ついでに民家のかいわい、下水道、川、土手、広大な田畑などあらゆる場所を捜した。約1カ月たったころ、近所の人の「砂防ダムの入り口に白いものが浮いている」との知らせで急行すると、まさにわが家の籠であった。今は再び所定の場所に鎮座し、見るたびに掃除をしろとけしかけてくる。

 3年前の冬には、40年愛用のマフラーを散歩中になくした。あの時も連日探索した。春になり、諦めかけた頃、自宅から500メートル先の畑の隅に意外ときれいな状態で見つかった。両方ともまさに奇跡だ。絶対に見つけるという執念が実ったのかもしれない。

 昨年末、弟嫁が体調を崩し入院をした。年が明け、若くして逝った娘の命日を目前に、集中治療室で誰にもみとられず、旅立った。それは暴風で目が覚めたあの日、あの時間帯のことだった。寿命に奇跡は起こらなかった。決して愚痴を言わず、朗らかで快活な人だった。弟は誠に幸せであった。

(浜田市・清造)

2020年3月5日 無断転載禁止