ウイルスよりも速く広がる

 若い頃、胃酸過多に悩んだ経験がある。生活が不規則で、朝、昼と2食続けて抜くことも珍しくなかったからだ。食べ物の消化や殺菌の役目をする胃酸が、空腹になると胃の粘膜を傷つけて胸焼けがしたり、胃酸が込み上げてきたりした▼本来は社会生活に役立つはずの情報も、胃酸のように過多になると、真偽を見極める余裕がなくなり、弊害も出る。新型コロナウイルスの影響で、山陰でもマスクに加え、デマに振り回されて「在庫は十分」というトイレットペーパーまで一時品薄になる現象が起きた▼不安心理が働くと、ニュースでデマと伝えられたり、半信半疑だったりしても、取りあえず買っておこうという人も出てくるのだろう。先週末、配偶者も「4軒回ったけど、トイレットペーパーなかった。困る」と憤っていた▼1973年のオイルショックの時にもトイレットペーパー騒動があったが、スマートフォンが普及し、会員制交流サイト(SNS)時代になった今は、情報が拡散するスピードが比較にならないほど速い。しかも昨年10月、台風19号の通過を前に東京などのコンビニで食品が品薄になったように、生活防衛意識が先手先手で働く▼世界保健機関(WHO)は、不確かな情報が大量に広がる状況を「インフォデミック」と呼んで注意を呼び掛けている。デマが拡散する速さは、ウイルスが広がる速さよりも速い。要注意だ。(己)

2020年3月8日 無断転載禁止