責任と覚悟

 福島第1原発事故を引き起こした東日本大震災から11日で9年を迎える。それを前に、原発内にとどまり原子炉の制御に奔走した作業員約50人の戦いを描いた映画『Fukushima50(フクシマフィフティ)』の上映が始まった。タイトルは、作業員の勇気をたたえた海外メディアによる呼称を引用したという▼原作はノンフィクション作家門田隆将氏の『死の淵を見た男』。関係者90人以上に取材し、書き上げた。ただ、実名で登場するのは、現場で陣頭指揮に当たり、2年後に食道がんのため58歳で亡くなった吉田昌郎所長だけだ▼渡辺謙さん演じる吉田所長は、首相官邸の意向を受けて原子炉への海水注入ストップを命令する電力会社本店に逆らって注入を続ける。全ては原子炉の暴走を防ぎ、人々の命を守るという信念があってこそ。責任と覚悟がにじむ▼<訓練もしていない、マニュアルにも書いていない出来事が、俺たちに襲いかかってくる>。作品に登場する心の声は、新型コロナウイルスの感染が拡大する現在の社会にも重なって見える▼安倍晋三首相の要請による小中高校の臨時休校開始から1週間を迎えるが、今も教育現場や家庭で混乱が続き、批判がくすぶる。要請の医学的根拠が乏しく、首相の言葉から責任と覚悟が伝わってこないのも一因だろう。政権浮揚の思惑があるのなら、振り回される国民はたまったものではない。(健)

2020年3月9日 無断転載禁止