「てんでんこ」に倣え

 東日本大震災から9年が経過した。町並みの復興は進んでも、心の傷が癒えるには、まだまだ時間がかかるだろう。この震災がきっかけで「津波てんでんこ」の教えがあることを知った▼東北三陸地方に伝わる伝承で、津波が来たら他の人を気にせず、てんでんばらばらに高台に逃げろという意味。明治三陸地震(1896年)や昭和三陸地震(1933年)の教訓だそうだ。複雑な思いはするが、一人でも多く生き残るための「悲しい知恵」だったのかもしれない▼作家の小林信彦さんは、少年時代に家族から聞いた、「てんでんこ」とは対照的な例を紹介している。死者が約10万人とされる、終戦の年1945年3月10日の「東京大空襲」での悲劇だ。日本橋の明治座など避難先になっていた施設に大勢の人が押し掛け、結果的に多くの焼死者が出た▼災害などでは予期せぬ事態が起きるため、どちらの避難方法が正解なのかは一概に言えない。いずれにせよ万一の場合に自分の身をどう守るのかを、日頃から家族で確認しておくことが大切だ▼新型コロナウイルス感染症は、ついに「パンデミック(世界的大流行)」の表現になった。今なら臨時休校の子どもたちもいて、家族で向き合う時間は増えている。この際「てんでんこ」の教えのように、感染症予防の基本や留守番中の心得など「身を守る術」をしっかりと伝え、確認し合っておくといい。(己)

2020年3月13日 無断転載禁止