被災地のカノン

 災害時にはさまざまなデマや風評が飛び交う。「あそこは被災したから旅行は中止」「安全性が心配だから農産品を買うのはやめよう」。中には差別やいじめを引き起こすこともある▼本紙3日付くらし面で、風評被害をはねのけようと、質にこだわる福島県郡山市の農業者を紹介した。その思いに胸が熱くなる一方、東日本大震災から9年を経ても、いまだ風評と戦わなければならない現実に憤りを覚えた▼福島ゆかりの音楽家や詩人たちがつくる「プロジェクトFUKUSHIMA!」が掲げる宣言は鮮烈だ。「頑張ろう福島」「アイラブ福島」ではなく、シンプルに「FUKUSHIMA」。世界中に広がった古里へのネガティブなイメージをポジティブなものに切り替えるまで活動し続けるという決意がにじむ▼昨夏、プロジェクトの中心人物で音楽家の大友良英さんの演奏を松江市内で聴いた。福島出身のパンクロックのカリスマで、昨年4月に68歳で亡くなった遠藤ミチロウさんが作った珍しいバラード「カノン」。シンガー・ソングライター浜田真理子さんの透き通るボーカルと前衛的な大友さんのギターで奏でた。悔しさ、やるせなさ。そしてどうにかしたいというもがき。そんな被災地の思いを感じた▼どんな形でもいい。福島の味方でいよう。「FUKUSHIMA」が原子力災害からの立ち直りを示す誇らしい代名詞になるまで。(示)

2020年3月14日 無断転載禁止