「復幸」を呼ぶ疾走

 午前6時の「開門」の掛け声を合図に高さ約7メートルの門が開くと、せきを切ったように走りだす人たち。その数約5千人。参拝一番乗りの「一番福」を目指し、230メートル先の本殿めがけて石畳を疾走する▼江戸時代から続く伝統行事で、毎年1月10日に兵庫県西宮市の西宮神社で開かれる「開門神事福男選び」。3着までの「福男」を狙うには先着1500人が引くくじに当たり、前方に陣取る108人に入らなければならず、確率は7.2%。走る前から運が試される▼正月の風物詩をまねたイベントが7年前に宮城県女川町で始まった。「福男」ではなく「津波伝承 女川復幸男」。東日本大震災の巨大津波で被災した町の復興を目的に、住民有志が震災翌年から3月に開く「女川復幸祭」の一環として企画。阪神大震災で被災した西宮神社も趣旨に賛同し「公認」する▼女性も参加できるのと、3着まで「復幸男」に認定されるのは本家と同じ。違うのは、定員が300人と小規模な点と、津波を想定し「逃げろ!」の掛け声に合わせて約400メートル先の高台を目指すこと。「津波が来たら高台へ逃げる」は、日本海に面した山陰に住むわれわれも忘れてはならない鉄則だ▼今年はきょう15日に開催予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響で断念。ただ、中止ではなく延期に決めた。被災地に「復幸」を呼び込む疾走は、簡単には止まらない。(健)

2020年3月16日 無断転載禁止