とかげのしっぽ切り

 財務省の組織は、税務部門を除くと本省と各ブロックごとの財務局、それに都道府県にある財務事務所の概(おおむ)ね三層構造となっている。島根県には松江財務事務所がある▼財務省というと、エリート官僚集団のイメージが強いが、筆者が知っている松江財務事務所の職員らは実務家肌の人が多かった。実直で、小うるさい取材にも誠実に応じてくれた。本省キャリア組のことを話すと「あの人たちは、特別列車に乗っていますから」▼森友学園への国有地払い下げを巡る公文書改ざん問題で自殺した元近畿財務局職員、赤木俊夫さんの妻が、国などを相手取って損害賠償を求める訴訟を起こした。佐川宣寿元同省理財局長の指示で決裁文書の改ざんを強制されたのが、自殺の原因としている。安倍晋三首相の昭恵夫人らの関与を示す部分が削除された事実が明らかになっているが、なぜ改ざんが行われたかははっきりしていない▼訴訟とともに公表された赤木さんの手記には、改ざんを執拗(しつよう)に求める本省と抵抗する近畿財務局のやりとりも記されている。上からの無理難題に抗(あらが)いながらも、受け入れざるを得ない組織の病理は、政治学者の丸山真男が「抑圧移譲」と呼んだ集団内の圧力の流れと重なる▼抑圧を忖度(そんたく)と置き換えれば、問題の本質が浮かび上がるようだ。その本質が曖昧にされたまま、とかげの尻尾切りを恐れた無念は償われるだろうか。(前)

2020年3月24日 無断転載禁止