憲法記念日/権利の価値、再確認を

 日本国憲法は施行から73年を迎えた。新型コロナウイルス対策の特別措置法に基づく緊急事態宣言で、憲法が保障する基本的人権が一部制約される極めて異例の状況下の憲法記念日となる。普段は当たり前のように行使している権利の意義と価値を改めて確認したい。

 新型コロナでは休業要請に応じないパチンコ店のために私権制限をさらに強める罰則規定の検討が浮上している。

 自民党が2018年にまとめた改憲条文案に盛り込んだ「緊急事態条項の新設」を主張する意見も出ている。だが感染症対策の緊急事態宣言と、自民案の緊急事態条項は全く別のものである。

 自民党は今の通常国会でも改憲論議を進めようと野党に求めている。しかし安倍晋三首相自身が言及してきたように、国家の根幹に関わる憲法の議論は「静かな環境」の下で冷静に行わなければならない。国民の生命が関わる事態に乗じる議論は慎むべきだ。

 新型コロナの緊急事態宣言の下で都道府県知事は、外出の自粛や施設の使用制限などの要請、臨時の医療施設用の土地・建物の強制使用などができる。措置によって強制力は異なるが、移動や集会、営業の自由、財産権などを制約するものだ。

 一方で、憲法は「公共の福祉」のために一定の権利を制約することを認めている。感染症対策としての私権制限が、公共の福祉の観点からどこまで認められるのか。特措法の改正の際も十分な議論は行われなかった。

 感染症対策での個人データや情報通信技術の活用はプライバシー権の侵害につながりかねない。他人を監視するような社会の「同調圧力」によって、権利の行使が妨げられる恐れもある。

 基本的人権は戦前の反省も踏まえ、憲法に明記された。だが、その基盤はいかに危ういかを自覚したい。憲法12条は「自由と権利は、国民の不断の努力によって、これを保持しなければならない」と定めている。私たちに今、求められているのは、権利を守るために異例の事態を一日も早く終わらせる努力だろう。

 安倍首相は宣言発令を報告した衆院議院運営委員会で、自民改憲案の緊急事態条項について「憲法にどう位置付けるかは極めて大切な課題だ。国会の憲法審査会で、与野党の枠を超えた議論を期待したい」と述べた。

 しかし特措法に基づく宣言は対象を感染症に限定し、取れる措置も明示している。一方、自民改憲案の緊急事態条項は「大規模な災害」という曖昧な定義の下で、内閣に法律と同じ効力を持つ政令制定の権限を認めるものだ。権力を内閣に集中させる規定で、新型コロナの宣言と同列に論じることはできない。

 自民党は感染拡大を受けて二つの課題を挙げ野党に議論を促した。国会議員に多数の感染者が出た場合の対処と、衆院議員の任期満了まで事態が終息せず、国政選挙が実施できない事態への対応だ。確かに憲法の規定に関わる課題だが、参院の緊急集会などの対応策も用意されている。

 自民党の狙いは、9条の改正論議に野党を呼び込むことではないか。だが今は新型コロナ対策に専念する時で、国会の憲法審査会は、私権を制限した宣言の妥当性こそを終息後に検証すべきだ。

2020年5月3日 無断転載禁止