世事抄録 歴史的快挙

 数学の超難問「ABC予想」が京都大数理解析研究所の望月新一教授によって証明されたというニュースは、新型コロナ一色に染まり重苦しい日本列島に明るい光となった。

 証明完成まで20年を要し、論文の内容を検証する査読には8年かかったという。新聞にはABC予想の意外にシンプルな問題全文が掲載されていたが、もちろん理解の及ぶところではなかった。

 高校の時、病気で数カ月入院した。退院して最もブランクの影響があったのが数学だった。基本の部分が抜け落ち、微分積分、幾何などが次々と周回遅れになり挫折した。以来、数学は一番遠い存在になり、社会に出てからはますます疎遠になった。

 それでも数学と接近遭遇する経験はなくはなかった。ある時、数学で博士号を取得した研究者と話をする機会があった。研究テーマは「掛谷(かけや)の極大作用素(関数)」の評価。難問の一つで、ある種の不等式の証明だそうだが、いくら話を聞いても最後までさっぱり分からなかった。

 数学で一番の面白みを尋ねると、彼は自ら考えて解決することを挙げた。数式を眺めながら延々と自分の中でキャッチボールを繰り返し、背後のからくりを見つけるところに喜びがあるという。

 望月教授も20年もの間、数式と向かい合って孤独な対話を続けてきたに違いない。コロナの暗雲さえなかったら、もっと大きく取り上げられたはずだ。数学に革命をもたらす歴史的快挙に門外漢からも大きな拍手を送りたい。

(出雲市・呑舟)

2020年5月28日 無断転載禁止