【ナグプール共同】経済成長が進むインドで、開発によって取り壊されつつある南インド先住民ドラビダ人の古墳を記録しようと、日本人の考古学者が奮闘している。関西大非常勤講師の上杉彰紀さん(44)。インドと東南アジア、日本をつなぐ、謎が多い交易路「海のシルクロード」の解明につながる可能性もあるという。
西部マハラシュトラ州ナグプール郊外ライプル・ヒングナ遺跡。大小の石を積み上げた直径約20メートル、高さ数十センチの円形古墳の真ん中を道路が貫いていた。「紀元前500〜千年ごろの高貴な人の墓だろう」。ドラビダ人が築いた「巨石文化」の一部とみられ、数キロ四方に同様の古墳が約260カ所点在するという。
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インドのマハラシュトラ州ナグプール郊外のライプル・ヒングナ遺跡を調べる上杉彰紀さん=3月(共同) |
衛星利用測位システム(GPS)を利用して消える前の遺跡の位置や形を確認。将来的には小型無人機「ドローン」で空撮する計画だ。地図に落とし込み、大学や研究機関に活用してもらいたいと考えている。
上杉さんによると、ライプル・ヒングナ遺跡は19世紀後半に英国人が発見。1992年にインドが一部を調査したが、十分に保存せず放置した。インドでは文化財保護への関心が低く、人口増による道路や宅地造成が加速し、急速に遺跡が破壊されている。
上杉さんは90年代からインド北部の仏教遺跡やインダス文明遺跡を調査。数年前、対象を南インドに広げた。多数の古墳が分布する南インド一帯は、弥生時代などの日本の遺跡から見つかるガラス製小玉の産地の可能性があるが、インド側の研究が少ないという。
遺跡の存在を知りながら、あえて工事を急ぐ地元業者もいる。上杉さんは「開発を止める手だてはない。古墳は数年後に消滅しているかもしれず、今動かないと」と危機感を強めている。
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