2021年7月の名古屋場所千秋楽で攻め合う照ノ富士(右)と白鵬=ドルフィンズアリーナ
2021年7月の名古屋場所千秋楽で攻め合う照ノ富士(右)と白鵬=ドルフィンズアリーナ

 65歳を迎えた昨年9月の大相撲秋場所千秋楽を最後に日本相撲協会を定年退職した、出雲市出身の立行司、第38代木村庄之助こと今岡英樹さん。半世紀に及ぶ行司人生で最も印象に残る取組に、2021年7月名古屋場所千秋楽の結びの一番を挙げた.

 横綱白鵬(現宮城野親方)と大関照ノ富士(現横綱)=鳥取城北高出身=の無敗同士の対決だ。「土俵に足の踏み場がなかった。2人とも手は長く体は大きいし、相撲は速い」「横綱たちが命を懸けた凝縮された相撲だった」。激しい攻防の末、白鵬が照ノ富士を小手投げで破った。この取組を最後に白鵬は引退。照ノ富士は場所後に横綱に昇進した。

 あれから3年半。白鵬が36歳で引退した後、両膝痛や糖尿病の悪化に苦しみながら一人横綱の重責を担った33歳の照ノ富士がついに引退を発表した。

 現役最後の一番となった今場所4日目は翔猿に背中を向け、送り出されて完敗。“有終の美”を飾った先輩横綱には程遠い姿だった。だが、両膝のけがや内臓疾患の影響で大関から序二段に転落しつつ、奇跡の復活で最高位を射止めた輝きがうせることはない。

 引退会見で「やれることはやった」と語った照ノ富士。思い出の一番を聞かれると、今岡さんが挙げた白鵬戦ではなく、けがから復帰し序二段の土俵に上がった取組を挙げ「14年の相撲人生で一番緊張した」と振り返った。苦労人らしい妙味があった。(健)