2020年山陰中央新報社地域開発賞 表彰式

社会貢献へ決意新た  (2020/10/23)

松尾倫男社長から表彰状を受け取る藤原誠さん(左)=松江市千鳥町、ホテル一畑

 島根県内の各分野で、長年にわたり地域社会の発展に尽くした人を顕彰する山陰中央新報社の地域開発賞の表彰式が22日、松江市千鳥町のホテル一畑であり、5賞6部門の受賞者が活動の足跡を振り返り、決意を新たにした。

 受賞したのは、高村行雄さん(66)=スポーツ賞、隠岐の島町西町▽渡辺志津子さん(58)=文化賞、松江市西川津町▽吉本美和子さん(55)=教育賞、浜田市三隅町折居▽東国雄さん(79)=産業賞第1部門(農林畜水産)、邑南町日貫▽三島花子さん(81)=産業賞第2部門(商工鉱・観光・建設)、松江市大庭町▽藤原誠さん(71)=社会賞、同市八雲町熊野=の6人。

 表彰式で、山陰中央新報社の松尾倫男社長が「ぶれなく、信念を曲げず、現役の活動を続けている。今後も明るく活力のある町づくりのために活躍してほしい」とたたえ、表彰状と副賞を贈った。

 式後の祝賀会では受賞者があいさつ。レスリングの普及、強化に尽力し、五輪選手も育てた高村さんは「命が尽きるまでレスリングを通し、地域の活性化と青少年の健全育成を図りたい」と力強く述べ、歌手活動をしながら合唱団を指導する渡辺さんは、新型コロナウイルスで苦しんできた音楽業界に触れ、「音楽が必要と実感できるようになった時に賞を頂き、何よりの励みになる」と喜んだ。

 公民館主事の枠を超えて地域活動に取り組む吉本さんは「地域の皆さんの支えがあって受賞できた。これからも地域と子どもと関わりたい」と感謝。集落で栽培した作物を生かした特産品づくりのグループ代表として地域を引っ張る東さんは「小さな集落だが、大きな夢を持って頑張る」と短い言葉に思いを込めた。

 観光ボランティアガイドとして松江の魅力を伝える三島さんは「松江城の上り下りは1人だとできないが、お客さんを案内しながらだと楽しい。もう少し頑張りたい」とし、詐欺や悪徳商法の被害を寸劇で伝える劇団代表の藤原さんは「高齢化にあらがいながら活動し、防犯の一助になりたい」と意気込んだ。

2020年山陰中央新報社地域開発賞 受賞者の横顔

 山陰中央新報社が、島根県内で長年にわたり地域社会の発展に貢献している人を表彰する「2020年山陰中央新報社地域開発賞」の表彰式が22日、松江市千鳥町のホテル一畑である。表彰に合わせて、スポーツ▽文化▽教育▽産業(第1部門・農林畜水産、第2部門・商工鉱・観光・建設)▽社会―の各賞を受けた6人の功績と横顔を紹介する。

第65回スポーツ賞

小学生を指導する高村行雄さん=島根県隠岐の島町栄町、町総合体育館

隠岐の島町総合体育館館長
  高村 行雄さん(66)

     =隠岐の島町西町=

レスリングの裾野拡大

 「上手にできたね」「じゃあ、もう一回」。古里の島根県隠岐の島町に創設したレスリング教室。日本代表スタッフとして国際試合を戦う勝負師のそれとは違う優しいまなざしで、前転や後転に挑戦する小学生を見守る。「マット運動はいろいろなスポーツの動きの基礎。一人でも競技を続けてくれたらと思う」

 28歳で出場した1982年のくにびき国体で準優勝すると、すぐに指導者に転じた。県体育協会に勤めながら、2年後の県立武道館レスリング教室を手始めに県内各地で教室の開設に尽力。2016年リオデジャネイロ五輪代表の渡利璃穏さん=松江市出身=を育てるなど、少年少女レスリングの裾野拡大と強化の先頭に立ってきた。

 レスリングに興味を持ったきっかけは1964年東京五輪。金メダルに輝いた「アニマル」こと渡辺長武選手の活躍に心を躍らせた。15歳で隠岐を離れ、大阪の浪商(現大体大浪商)高校から大阪体育大に進み、全日本選手権で3位に。卒業後、米国留学に備えていたところ、くにびき国体の強化指定選手になり、小学校の助教諭を経験したことが教室を開く原点になった。

 「強い選手を育成するのではなく、自信やチャレンジ精神を深められる子どもを育てる」をモットーに続けてきた。松江レスリングクラブで日米交流事業に挑戦したのも、スポーツを通じて文化の違いや英語への関心を高めるのが狙い。高校時代、米国に遠征し、日本の体育会系の部活とは一線を画したおおらかな雰囲気で練習する選手の姿にひかれた体験を形にした。

  「県レスリング協会や家族の支えがあったから、ここまで来られた」。全国の関係者に掛け合って少年少女の全国大会を誘致したほか、学校に部活がない中高生を全国優勝に導いた体験など、思い出は尽きない。

 夢は島根県で2030年に開催予定の国民スポーツ大会(現・国民体育大会)に、隠岐から選手を送り出すことだ。「相撲、柔道が盛んで素質のある子どもは多い。継続して競技に取り組める環境を支えたい」と目を細めた。

第59回文化賞

合唱の指導をする渡辺志津子さん=松江市殿町、ケイ・バレエスタジオ

松江プラバ少年少女合唱隊代表
  渡辺志津子さん(58)

     =松江市西川津町=

子ども指導し国際2位

 松江市西津田6丁目の市総合文化センタープラバホールで、30年以上にわたり松江プラバ少年少女合唱隊を指導する。好きな音楽や子どもたちと共に歩む日々は「いつも楽しい」。教え子は千人を超え、中には声楽家の道を選んだ人もいる。

  幼い頃から母に童謡唱歌や演歌を教わった。中学、高校生の頃はピアノ教室で音楽表現の素養を培った。大阪芸術大卒業後は、同大演奏学科の研究室に勤務する傍ら、オペラを上演する関西歌劇団に入団。ソプラノ歌手として活動した。

  1987年に帰郷。翌年、プラバホールでのコンサートに歌手として出演したのを機に、松江プラバ少年少女合唱隊のボイストレーナーを務め始める。96年には指揮者になり、2004年には代表に就任した。
  現在、約60人が在籍する合唱隊は幼児から高校生までと年齢層が幅広い。レパートリーも宗教曲からミュージカルまで多様だ。

  渡辺さんは指導の際、声づくりや発声はもとより、あいさつといった礼儀や、年齢の違いを超えて仲良くすることを教える。合唱は声だけでなく、心を寄り添わせることが大切だと考えるからだ。

  発想も豊か。指揮者に就任した当時、宗教曲が中心だったレパートリーにポップスを導入。減少傾向だったメンバーが増加に転じた。

 昨年はイタリアのセギッツィ国際コンクールで初の海外演奏に挑戦。グランプリ2位という高評価を得た。多くの声楽家を育て上げる手腕も確かで、合唱隊にとってなくてはならない存在だ。
      
  新型コロナウイルスの影響で今年2月末に対面レッスンを中止したが、4月には早くも1対1のオンラインレッスンを再開。コンサート中止により生じた時間を活用し、童謡唱歌を集めた合唱団初のCDを制作し、今月発売した。

 仕事として音楽に絶えず関われている人生を恵まれていると感じる。「未来が広がる子どもたちと一緒に活動できて本当に幸せ」と笑顔を浮かべる。

第54回教育賞

公民館事業の打ち合わせをする吉本美和子さん=浜田市三隅町折居、白砂公民館

浜田市立白砂公民館主事
  吉本美和子さん(55)

     =浜田市三隅町折居=

地域の魅力に光当てる

 日本海に面した浜田市三隅町折居地区の白砂公民館で、主事として長年地域の魅力発信に汗を流す。

 市内の高校を卒業後、会社員を経て、1999年4月に同公民館の主事に就いた。

 多岐にわたる業務に当初は悩むことばかりだった。「来年度こそは辞めよう」と思いながら働いていた。それでも、「地域の人のためにまだ何もできていない。恩返ししないといけない」と歯を食いしばった。

 支えとなったのが旧三隅町教育委員会の男性係長の「困ったり、悩んだりしたら地域に出んさい(出なさい)」と言うひとことだった。その言葉を実践し、積極的に地域に足を運んだ。

 転機になったのは2009年、島根県が公民館を拠点として地域の活性化に取り組む事業「実証!地域力醸成プログラム」で、地元の特産品・西条柿の魅力発信に取り組んだことだった。

 子どもたちが身近に感じるきっかけをつくるため、島根県立大浜田キャンパス(同市野原町)読み聞かせサークルの協力を受け、地域住民を交えて絵本を作成した。

  主人公は三隅町に住む柿嫌いの女の子。過去にタイムスリップし、生産者だった祖父の思いを知って柿が好きになるストーリーに仕上げた。

 分かりやすい内容が子どもたちの人気を集めた。市内外に向けて特産品の魅力発信にいっそう力を入れた。

 ゆるキャラ「西条柿右衛門」が誕生し、着ぐるみが地域のイベントなどで活躍。西条柿を使った干し柿で、ゆで卵を包んで天ぷらにする郷土料理はテレビの全国放送で取り上げられて、活動の輪はどんどん広がった。「子どもたちに地元への愛着、郷土への誇りを持ってもらえた。生産者の意欲向上にもつながった」と笑う。

 主事になって21年。地域に眠る魅力に光を当てる活動は終わりがなく、「子どもたちが暮らし続けることができるように、今住んでいる人たちが地域の未来を真剣に考えないといけない」と前を向く。

第54回産業賞・第一部門(農林畜・水産)

ゴボウを収穫する東国雄さん=島根県邑南町日貫

東屋山菜加工グループ代表
  東 国雄さん(79)

     =邑南町日貫=

資源生かし集落に活力

 西中国山地の中央に位置する島根県邑南町。日貫地区東屋(あずまや)集落で、ゴボウとソバを育てる。海抜340メートル、山に囲まれた見晴らしのいい畑を前に「こんな環境でおいしいもんが育つんで」と胸を張る。

 同集落の生まれで矢上高校を卒業後、集団就職で姫路市に出た。9年後の1969年、葉タバコ栽培を手掛けていた実家に戻り後を継いだ。

 米価が低迷する中、現金収入を得るためゼンマイやワラビ、タラの芽の収穫を発案。87年に東屋山菜加工グループを設立し、代表に就いた。

 さらに、江戸時代に津和野藩の飛び地だった同地区で藩主が好んで食べたとされるゴボウに目を付け、特産化を目指し栽培を始めた。

 粘土質の土壌で水の管理や手作業の収穫に苦労したが、香りが良く柔らかい食感が人気を集めた。「おいしい」と収穫を待つファンの存在がやりがいにつながる。栽培農家は3軒に減ったが、収穫が途絶えないように育てている。

 代々続くソバの栽培に力を入れる。在来種で風味がよく、そばを使ったまちづくりを進める同町内で、お手製のそば粉が人気を集める。

 埋もれていた地域資源の活用にも熱心だ。樹齢350年を超えるしだれ桜を守るため、「平原しだれ桜保全委員会」を立ち上げた。

 放置されていた桜と周辺を整備し、毎年4月にさくら祭りを開催。訪れた人をそばや天ぷらでもてなし、にぎわいの創出につなげている。

 19年春にパーキンソン病を発病し、農作業ができなくなった。治療の効果もあり、手の震えは残るがまた畑に戻り作業ができるまで回復した。「育てるのは大変だが作り手が減ってきて自分が作って守らにゃいけん」と鼓舞する。ソバ20アール、ゴボウ5アールの畑が今も職場だ。

 「ソバやゴボウがなければとっくに集落はなくなっていたかもしれん」と、人と人とをつなぎとめてきたのが地域資源だと強調。「歴史あるここだけの財産を伝えるために、東屋の取り組みを集落外の人の力も借りて継承していきたい」と力を込める。

第54回産業賞第二部門(商工鉱・観光・建設)

旅行者を案内する三島花子さん=松江市殿町、松江城

松江市観光ボランティアガイド
 三島 花子さん(81)

     =松江市大庭町=

20年以上最前線で歓迎

 松江市民有志でつくる「松江市観光ボランティアガイドの会」に所属し、松江城周辺の観光ガイドに20年以上携わる。2015年に松江城天守が国宝に指定され、島根県内外から多くの観光客が詰めかける中、おもてなしの最前線に立ち続ける。

 高校卒業後は県内の製造会社で主に取引先との電話担当係として60歳の定年まで働いた。退職後の生活に張り合いを持てずにいた頃、市の観光ボランティアガイド制度の募集を目にし、興味本位で応募。2期生として1999年に活動を始めた。

 松江城周辺は「用事がある時に行く程度」で、もともとなじみ深い場所ではなかった。当初1年間は1期生の先輩ガイドについて回りながらメモを取り、自費で買い込んだ歴史図書や先輩の説明をまとめたノートを何冊も自作した。1期生の熱心な指導のおかげで、やりがいも芽生えた。

 独り立ちのデビューは翌年5月の大型連休。「とにかく怖かった」と臨んだ初のガイドで、奈良県から来た男性から「新米かい? でも、よう知っとられるね」と声を掛けられたことが自信になり、ますますガイドにのめり込んだ。2013年から4年間は同会の会長を務め、松江城天守の国宝化に向けては、ガイドの合間に署名を募るなど尽力した。

 81歳になった現在も日曜日の無料ガイドなどで月10回前後は活動する。1回のガイドは1人から多い時で20人ほど。所要時間や興味に合わせたガイドを心掛け、蓄積した知識から利用者の住んでいる県や市の話題で場を楽しませる。天守に続く石段も「ガイドしながらだと疲れを感じない」と衰えを見せない。

 ガイドの会と共に年輪を重ねてきた今、将来にわたり会が存続することが何よりの願いだ。「引退」の2文字が頭をよぎる中、後輩が何でも質問しやすい会の雰囲気作りに力を注ぐ。「初めてのことは誰でも怖い。厳し過ぎず、ゆる過ぎず、後進をサポートしたい」とバトンを渡す準備を進めている。

第54回社会賞

特別定額給付金詐欺を扱った寸劇を演じる藤原誠さん=松江市千鳥町、市総合福祉センター

松江あいあい劇団代表
  藤原 誠さん(71)

     =松江市八雲町熊野=

寸劇で防犯意識を醸成

 悪質商法や特殊詐欺の被害を食い止めようと、出雲弁を交えた寸劇で伝える「松江あいあい劇団」の代表を務める。元警察官という経験を生かし、実際に発生した事件を台本に反映、より現実に近い演技で犯罪への注意を住民に呼び掛ける。「団員をはじめ、これまで関わった人たちのおかげで続けることができた」と周囲に感謝する。

 1968年に島根県警の警察官を拝命した。思い出すのは松江をはじめ益田や大田、隠岐といった赴任先で住民と家族ぐるみで交流を深めたことだ。「仕事にほれ、土地にほれ、人にほれていた」とする。

 20年前、雲南署で勤務していた際に県内で催眠商法の被害が相次いだ。演劇を通して住民に注意を促そうと、地域安全推進員や少年補導員とともに「木次あいあい劇団」を結成。「ふれあい たすけあい わきあいあい」をモットーにしたユーモアのある寸劇は、高齢者に防犯意識を醸成するための効果的な方策として確立した。

 2004年に定年退職して松江に戻ってからは「松江あいあい劇団」に参加。翌年から団長を任され、出演だけでなく脚本や小道具作りを担当した。多い時には年間46回、これまで200回以上の公演を県内各地でこなす。

 特殊詐欺の被害はなくならない。手口は巧妙化の一途をたどっている。新手に対処するため被害情報にアンテナを張り、台本や寸劇に反映させる。最近、多発する電子マネーを奪う特殊詐欺は、実際にコンビニへ出向いて取材し、寸劇では実物の電子マネーを高齢者に回覧してもらう。「あらかじめ手口を知っていれば、事件に遭遇した時に気付くことができるかもしれない」と考えている。

 現在の団員はわずか4人。ぎりぎりの人数で各地を回る。見る人が親しみを持てるようにと、出雲弁を交えて笑いの要素を欠かさない。

 「楽しんでやっているからここまでできた。被害を食い止めるため、できるところまで続けたい」と高齢者の安心・安全を守ろうと腐心する。

2020年山陰中央新報社地域開発賞 選考委員(順不同、敬称略)

[第65回 スポーツ賞]
島根大学名誉教授 斎藤 重徳
島根県環境生活部スポーツ振興課長 佐藤 正範
島根県体育協会専務理事 安井 克久
島根県スポーツ推進委員協議会会長      森本 敏雄
島根県高校体育連盟会長 吾郷 信博
島根県中学校体育連盟会長 古藤 浩夫
[第59回 文化賞]
島根大学法文学部長 丸橋 充拓
島根県教育委員会教育長 新田 英夫
島根県市町村教育委員会連合会会長 杉谷  学
島根県環境生活部長 竹内 俊勝
NHK松江放送局長 吉光 賢之
山陰中央テレビジョン放送取締役相談役 有澤  寛
[第54回教育賞]
島根大学教育学部長 加藤 寿朗
島根県教育委員会教育長 新田 英夫
島根県市町村教育委員会連合会会長 杉谷  学
島根県高校PTA連合会会長 大屋 光宏
島根県PTA連合会会長 原  完次
島根県高校文化連盟会長 常松  徹
[第54回産業賞]
島根大学生物資源科学部長 井藤 和人
島根県農林水産部長 鈴木 大造
島根県商工労働部長 太田 史朗
島根県商工会議所連合会会頭 田部長右衛門
島根県商工会連合会会長 石飛 善和
島根県農業協同組合中央会会長 石川 寿樹
漁業協同組合JFしまね会長 岸   宏
[第54回社会賞]
島根大学名誉教授 多々納道子
島根県教育委員会教育長 新田 英夫
島根県環境生活部長 竹内 俊勝
島根県健康福祉部長 小村 浩二
島根県警察本部長 堀内  尚
島根県社会福祉協議会会長 江口 博晴
島根県連合婦人会会長 野々内さとみ