2024年山陰中央新報社地域開発賞 表彰式

社会支える 6人決意新た  (2024/10/31)

松尾倫男社長(右)から表彰状を受け取る金津義彦さん=松江市千鳥町、ホテル一畑

 島根県内の各分野で地域の発展に尽くした人を顕彰する「山陰中央新報社地域開発賞」の表彰式が25日、松江市千鳥町のホテル一畑であり、文化、教育や産業など5賞6部門の受賞者6人が決意を新たにした。

 受賞者は金津義彦さん(63)=スポーツ賞、松江市島根町加賀▽小林准士さん(54)=文化賞、松江市雑賀町▽伊藤宏さん(84)=教育賞、大田市大田町▽北垣正宏さん(67)=産業賞第1部門(農林畜水産)、同市三瓶町▽江木修二さん(66)=同第2部門(商工/観光/建設)、浜田市朝日町▽斎藤友法(とものり)さん(39)=社会賞、益田市匹見町匹見。

 表彰式では、山陰中央新報社の松尾倫男社長が「地域のリーダー、模範として今後とも活動していただきたい」とたたえ、表彰状と副賞を贈った。

 これに対し、受賞者が受賞の喜びと、地域への思いを語った。

 フェンシング元五輪代表の金津さんは「2030年の(島根かみあり)国民スポーツ大会まで元気で(指導を)続けたい」と意欲を見せ、史料の収集で松江の歴史を掘り起こす小林さんは「地域貢献を評価していただけた」と述べた。

 三瓶山をフィールドに小学生への環境教育に当たる伊藤さんは「できる限り活動を続けたい」と誓い、林業用苗木の生産を手がける北垣さんは「私一人の力ではなく、妻のおかげで続けてこられた」と感謝した。

 匹見の子育て、地域福祉の向上に汗を流す住職の斎藤さんは「さまざまな方のお力添えがあったからこそ受賞できた」とし、浜田市のソウルフード「赤てん」の生産、情報発信に尽力する江木さんは「順風満帆な事業ではないが、続けてこられたのは皆さんのご支援のたまもの」と力を込めた。

2024年山陰中央新報社地域開発賞 受賞者の横顔

 山陰中央新報社が、島根県内の地域社会の発展に尽力する各分野の功労者を顕彰する「2024年地域開発賞」の表彰式が25日、松江市千鳥町のホテル一畑である。表彰に合わせ、スポーツ▽文化▽教育▽産業(第1部門=農林畜水産、第2部門=商工・観光・建設)▽社会-の各賞に選ばれた6人の横顔を紹介する。

第69回スポーツ賞

子どもたちに剣さばきを教える金津義彦さん=松江市古志原4丁目、松江工業高校

松江フェンシングクラブ代表
  金津義彦さん(63)

     =松江市島根町加賀=

トップレベルの選手育成

 フェンシングの元日本代表で五輪に2度出場した。現役引退後に松江フェンシングクラブを開き、小中学生らを教える。競技レベルに合わせたきめ細やかな指導で、国内トップレベルの選手を育て、競技普及に尽力。古里の島根に「恩返しをしたい」との思いが原動力になっている。

 競技を始めたのは松江工業高校1年の時。法政大在学中にインカレで2度優勝するなど輝かしい成績を残し、国民体育大会(現・国民スポーツ大会)の出場は15回を数える。

 五輪には1984年のロサンゼルス大会、88年のソウル大会に出場。ソウル大会団体では、個人戦金メダルの選手に、ひるむことなく持ち味のスピードで懐に入り、接戦を制した。

 97年の大阪国体を最後に37歳で現役を引退。現役時代の経験を後世に伝えてほしいとの周囲の声に応え、98年に島根県内では初めてとなるジュニア世代を育成する松江フェンシングクラブを設立した。

 指導で心がけるのは「一人一人に向き合う」ことだ。生徒たちがフェンシングを楽しみ、好きになってもらうために自発的に考えて上達するような練習を意識する。

 26年間で指導した選手は約90人。2021年インターハイ男子サーブル種目で個人優勝した津森志道選手(法政大)や23年のインターハイ女子サーブル種目で個人優勝の周藤美月選手(愛媛・新田高)ら全国の舞台で活躍する選手を数多く輩出している。

 パリ五輪で五つのメダルを獲得するなど、日本はメダル獲得の常連国に成長した。世界の舞台で活躍する選手を見て、フェンシングに興味を持つという好循環が生まれ、島根県の競技人口は現在、150人となった。

 競技全体に追い風が吹く中、6年後に控える「島根かみあり国スポ」を見据え、指導により力が入る。「高校、大学でも競技を続け、大会で活躍できる選手が一人でも多く育つよう頑張りたい」。後進の育成に意欲を見せた。

第63回文化賞

松江市史の編さんを振り返る小林准士さん=松江市西川津町、島根大

島根大法文学部教授
  小林准士さん(54)

     =松江市雑賀町=

郷土史研究の礎を築く

 11年がかりの大事業となっった『松江市史』の編さんに携わったほか、災害時に廃棄されてしまう史料の保全を呼びかける団体も立ち上げ、歴史の掘り起こしにも力を入れた。専門分野以外でも史料を収集し、将来の郷土史研究の礎を築いた。

 2020年に完成した松江市史の編さん事業では、近世史の部会長として編集を統括した。

 近世史は「通史編」と「史料編」など全18巻のうち6巻を占め、松江藩の権力が及んだ周辺の動きもまとめた。松江市と協議しながら掲載史料を選定し、解説が間違っていないか、古文書と照らし合わせて確認を重ねた。

 市史の編さんは今後の研究や史料の保存につなげるための通過点とした上で、「地域に利用してもらえるよう公開し、今後の調査研究の基礎をつくることができたことは大きい」と振り返る。

 自身は近世の宗教を専門に研究するが、「自分だけの研究に利用することを想定するのではなく、地域内外のさまざまな人に史料を利用してもらえるよう努めるのが地方国立大教員としての責任」との信念が、活動を支えている。

 13年度からは、庭園が国の名勝に指定されている島根県津和野町の銅山経営者・堀家の史料目録を作成し、手紙や日記など計約8万点を8冊にまとめて昨年に完成させた。

 地域に残る貴重な史料を後生に残そうと、00年の鳥取県西部地震発生時には、災害に遭った住宅に残っていた古文書などを保全するボランティア団体「山陰歴史資料ネットワーク」を研究者らと立ち上げた。16年の鳥取県中部地震や18年の西日本豪雨時にも被災地に出向き、史料の状態を調査し、一時保管や整理に当たった。

 これまでの活動で、存在したが処分された物や、所在が分からなくなってしまった物もあったといい、将来の研究につながる史料の保存と公開に意義を見いだす。「受賞は活動への激励だと思って、今後も続けていきたい」と力を込める。

第58回教育賞

希少な動植物の宝庫である三瓶山西の原を散策する伊藤宏さん=大田市三瓶町

大田の自然を守る会会長
  伊藤宏さん(84)

     =大田市大田町=

環境保護の志、次世代に

 希少な動植物の宝庫である国立公園・三瓶山や大江高山を舞台に、自然保護を目的とした除草作業や食草の植栽活動、観察会を開く。地球環境異変がいわれる時代、地元小学校で環境教育も主導する。

 浜田市出身。22歳で大田市に移り住み、自然の保護活動に取り組み始めたのは子育てが一段落した50歳の頃だ。子どもの頃に夢中になったチョウを守ろうと「蝶(ちょう)遊会」を1989年に結成し、活動を本格化させた。

 とは言え、当初は「知識や情報がない状態」からのスタート。例えば中国山地に生息し、三瓶山が西限の絶滅危惧種のチョウ「ウスイロヒョウモンモドキ」。生態が知られておらず、3年間観察を続けた結果、オミナエシが幼虫の餌になっていることを突き止めた。チョウの保護には食草となる植物の保全が重要であることに気が付いた。

 成果が出たのは99年7月。5年がかりで植え続けた女三瓶山の8合目で地面に止まったウスイロヒョウモンモドキを見つけ、夢中でカメラのシャッターを切った。「あの時の感動が、活動を続ける力になった」と語る。

 それ以来、地域の自然環境を後世に引き継ごうと、2003年には愛好家と共に「大田の自然を守る会」を設立した。毎日のように三瓶山西の原などの現場に赴き、希少種の観察や保全のための除草作業に当たった。

 もう一つ活動の柱に据えているのが、小学校での環境教育だ。いずれも絶滅が危惧されている大江高山のギフチョウ、三瓶山のオキナグサやユウスゲ、ヒロハノカワラサイコなどを題材に、子どもたちがチョウの卵のふ化や苗の植栽に挑戦する学習をサポートしてきた。

 里山の荒廃や気候変動の影響で、地域の自然環境は厳しさを増している。片や、守る会はメンバーの高齢化が徐々に進んでいる。しかし、守る会の指導をきっかけに、農学・環境系の大学に進んだ子どもたちもおり「次の世代に引き継げるといいね」とほほ笑む。

第58回産業賞第1部門(農林畜水産)

栽培したスギの苗木を手にする北垣正宏さん=大田市三瓶町

林業種苗生産
  北垣正宏さん(67)

     =大田市三瓶町=

苗木栽培 後継育成尽力

 造林に必要な林業用苗木の生産を長年手がける。質の高い苗木を安定して栽培し、品評会などでも高く評価されている。後継者の育成にも尽力し、島根県内の林業界発展に貢献している。  出雲農林高校を卒業後、スギの苗木を栽培していた家業を継ぎ、1977年から苗木生産に取り組む。2006年からは県林業種苗協同組合理事長を17年間務めるなどし、業界の振興にも尽力した。  父に教わった挿し木で苗を育てる方法を続けてきた。スギは出荷できる高さ60センチほどの大きさに育つまでに2年ほどかかる。1年目は、挿し木用のスギの木を苗畑に挿し、日よけを設けて育てる。2年目は、畑を休めるため別の畑に移す床替えを行ってさらに育成し出荷する。  現在、約240アールの畑に年間約13万本の苗を植える。苗を育てる16の個人、団体でつくる県林業種苗協同組合の年間契約本数の約2割を北垣さんが手がけ、島根県内外の造林に利用されている。  土づくりと苗の管理にこだわってきた。土は牛のふんなどを使い、水はけが良く、根が張りやすいように仕上げる。殺虫剤などで根を食べるコガネムシの侵入を防ぎ、栄養がスギに行き渡るように草取りも欠かさない。  地球温暖化の影響もあり二酸化炭素(CO2)の吸収量が多いスギの需要は高まっている。花粉症を防ぐため、近年は少花粉スギの苗木栽培にも取り組む。  天候や病害虫の影響で、思い通りに育たないこともある。北垣さんは「毎年、満足できる栽培ができるわけではない。それでも自然と関わっていると、いつも新たな発見があって楽しい」と話す。  21年5月には、大田市の国立公園・三瓶山を主会場に開かれた第71回全国植樹祭で、天皇、皇后両陛下のお手植え用のサクラやスギなどの苗木も作った。  現在は県西部の苗木生産者たちへの指導にも当たっている。後継者となる長男とともに、今後も地元林業界を支えたい考えだ。

第58回産業賞第2部門(商工・観光・建設)

店頭で赤てんを紹介する江木修二さん=浜田市朝日町、江木蒲鉾店

江木蒲鉾店代表取締役
 江木修二さん(66)

     =浜田市朝日町=

浜田発祥の赤てん発信

 浜田市のソウルフードとして、古くから市民に親しまれる「赤てん」は島根を代表する特産品の一つ。「浜田発祥の商品として発信し、もっと多くファンを増やしたい」と力を込める。

 妻の実家が1912年創業の老舗蒲鉾(かまぼこ)店。後を継ぐため、島根県警を退職して89年に入社した。その2年前、江木蒲鉾店の赤てんは全国放映のテレビ番組に取り上げられ、一躍注目を集めていた。しかし「人気は出ていたが特産品のパンフレットにはまだ載っていなかった」と当時を語る。

 弁当や食卓の身近な一品が特産の顔を持ち始めたのは、しばらくたって市民が土産や贈り物に使うようになったからだ。リピーターから注文が入り、口コミで販路は全国へ広がった。大事にしてきた地元の消費者が営業の役割を担ってくれたことがありがたく、感謝を忘れない。

 ハートの形をした赤てんを売り出したのも顧客のアイデアだった。江木の赤てんはピンクがかった赤色に特徴がある。「ハート形があったら絶対にかわいい。愛情弁当のおかずにもなる」。来店した女性客が何げなく話した一言を聞き逃さなかった。

 親しまれる商品作りを進めながら、2012年から浜田市特産品協会の会長も務める。魚や菓子などの食品だけでなく、陶芸品や神楽道具までオール浜田で売り込む攻めの一手を練る。「古里の浜田には誇れるものがたくさんある」との思いが背中を押す。

 自社の赤てん製造は大きな決断を下した。11月に工場を移転し、生産能力を1・5倍に引き上げる。労働環境の改善とともに、供給量の問題で取引できていなかった中国地方のスーパーなどに営業をかける戦略だ。

 戦後、港町の浜田にかまぼこ店は20軒以上あった。魚肉ソーセージなどに対抗し、生き残りを懸けて生まれたのが赤てんだったといわれる。残るのは2軒。「赤てんの灯を消すわけにはいかない」と踏み出す一歩に決意がにじむ。

第58回社会賞

子どもたちに絵本の読み聞かせをする斎藤友法さん=益田市匹見町匹見、匹見小中学校

善正寺住職
  斎藤友法(とものり)さん(39)

     =益田市匹見町匹見=

世代超え交流の場企画

 2012年4月から益田市匹見地区の民生委員・児童委員を務めているほか、少年補導委員や益田署協議会委員も務め、地域課題の解決に向け関係機関と連携を図る。「匹見への恩返しができればうれしい」と語る。

 浄土真宗本願寺派寺院の住職を務める。08年4月、父の血縁があった匹見に、広島県からIターンし、空き寺を継承した。地域活性化を願い本堂や境内地を開放し、イベントを企画、実施している。

 特に印象に残っていると振り返るのが、13年度に開催した「匹見つちのこファミリー子ども会」だ。匹見で初めての子育てサロンで毎月1回開き、本堂に段ボール迷路を設けるなど多彩なイベントを展開した。「参加者が世代を超えて交流し、この町を愛する気持ちを育めるよう取り組んだ」と話す。

 本職では浄土真宗本願寺派青年僧侶の会「楽法会(ぎょうほうかい)」の会員として、11年3月の東日本大震災発生後から被災地を計7回訪れ、支援に携わってきた。東北だけでなく、16年4月の熊本地震、今年1月に最大震度7の地震が発生した能登半島でも募金活動や物資確保・輸送、仮設住宅を訪問し、被災者の心のケアに当たる傾聴活動、死別の悲しみを抱える遺族をサポートする「グリーフケア」を続けている。

 Iターン後に結婚し、中学2年生を筆頭に5人の子どもを育てる父親でもある。匹見保育所や、同一校舎で運営されている匹見小学校、匹見中学校の保護者らでつくる協議会のメンバーとしても存在感を発揮し、同校の「地域まるごと図書館」で読み聞かせを行うなど、子どもたちと触れ合う。

 協議会で意見を出し合って図書館には過去の小中学校の卒業アルバムが保管され、閲覧できるようになった。「学校は地域のシンボルであり図書館は地域住民と子どもたちが交流する場でもある。とにもかくにも、今住んでいる人たちが中心だ。宗教人として何ができるかを自問自答している」と語る。

2024年山陰中央新報社地域開発賞 選考委員(順不同、敬称略)

[スポーツ賞]
島根大学名誉教授 齋藤 重德
島根県環境生活部スポーツ振興監 渡部 浩二
島根県スポーツ協会専務理事 竹内 俊勝
島根県スポーツ推進委員協議会会長 久家  彰
島根県高校体育連盟会長 山﨑  誠
島根県中学校体育連盟会長 安達 正治
[文化賞]
島根大学法文学部長 浅田健太朗
島根県教育委員会教育長 野津 建二
島根県市町村教育委員会連合会会長 杉谷  学
島根県環境生活部長 美濃  亮
NHK松江放送局長 増田 智子
TSKさんいん中央テレビ代表取締役社長 田部長右衛門
[教育賞]
島根大学教育学部長 川路 澄人
島根県教育委員会教育長 野津 建二
島根県市町村教育委員会連合会会長 杉谷  学
島根県高校PTA連合会会長 原  完次
島根県PTA連合会会長 坂手 洋介
島根県高等学校文化連盟会長 志波 英樹
[産業賞]
島根大学生物資源科学部長 上野  誠
島根県農林水産部長 野村 良太
島根県商工労働部長 新田  誠
島根県商工会議所連合会会頭 田部長右衛門
島根県商工会連合会会長 高橋日出男
島根県農業協同組合中央会会長 石川 寿樹
漁業協同組合JFしまね会長 岸   宏
[社会賞]
島根大学名誉教授 多々納道子
島根県教育委員会教育長 野津 建二
島根県環境生活部長 美濃  亮
島根県健康福祉部長 安食 治外
島根県警察本部長 丸山 直紀
島根県社会福祉協議会会長 小林 淳一
島根県連合婦人会会長 浅津 知子