2022年山陰中央新報社地域開発賞 表彰式

社会貢献 功績たたえる 7人を表彰  (2022/10/27)

松尾倫男社長(右)から表彰状を受け取る佐倉真喜子さん=松江市千鳥町、ホテル一畑

 島根県内の各分野で、地域社会の発展に尽くした人を顕彰する山陰中央新報社の地域開発賞表彰式が26日、松江市内のホテルであり、5賞6部門の受賞者が、決意を新たにした。

 受賞したのは上ケ迫定夫さん(68)=スポーツ賞、浜田市生湯町▽佐倉真喜子さん(86)=文化賞、島根県西ノ島町美田▽秦明徳さん(76)=教育賞、松江市法吉町▽渡辺祐二さん(66)=産業賞第1部門(農林畜水産)、浜田市熱田町▽安部寿鶴子さん(64)=同賞第2部門(商工・観光・建設)、松江市上本庄町▽三原一郎さん(75)、恵子さん(75)夫妻=社会賞、出雲市佐田町大呂。

 表彰式で山陰中央新報社の松尾倫男社長は「長年地道に活動された」とたたえ、表彰状と副賞を贈った。

 受賞あいさつで、東京五輪で入賞した三浦龍司さんをはじめ、陸上選手の育成に携わる上ケ迫さんは「これからも子どもと同じ目線で指導をしたい」、西ノ島町とロシアなどとの国際交流に尽力した佐倉さんは「自分たちがやらなければ変わらないことがたくさんある」と力を込めた。

 子どもたちに科学の楽しさを伝える秦さんは「自然に触れ、五感を通して直接感じさせることを大切にしてきた」と述懐。「どんちっちアジ」のブランド化や品質維持に取り組む渡辺さんは「浜田からPRし、斜陽といわれる水産業を盛り上げたい」と誓った。

 道の駅で先駆的に商品開発や移動販売に取り組む安部さんは「『一番』『初めて』にこだわって事業を続ける」と明言。8人の里子を受け入れた三原さん夫妻は、大人になった里子と続く交流に触れ「簡単ではなかったが、やってきてよかった」と笑顔を見せた。

2022年山陰中央新報社地域開発賞 受賞者の横顔

 山陰中央新報社が島根県内で地域社会の発展に尽力、貢献している各分野の功労者を顕彰する「2022年山陰中央新報社地域開発賞」の表彰式が26日、松江市千鳥町のホテル一畑であった。表彰に合わせ、スポーツ▽文化▽教育▽産業(第1部門・農林畜水産、第2部門・商工・観光・建設)▽社会-の各賞に選ばれた5人と1組の受賞者の横顔を紹介する。

第67回スポーツ賞

小学生を指導する上ケ迫定夫さん=浜田市黒川町、市陸上競技場

浜田ジュニア陸上競技教室長
  上ケ迫 定夫さん(68)

     =浜田市生湯町=

五輪三浦選手らを指導

 栄養士の資格を取り島根県職員となり、隠岐諸島で疾病予防に尽力した。退職後は西ノ島町で精神医療の環境改善、国際交流の促進と多方面の活動を展開し、人と人とのつながりの輪を広げた。

 終戦後、父親がソ連軍に抑留され、家計が苦しく食べ物の大切さを身に染みるほど感じたことが、栄養士となった原点だった。東京の専門学校を卒業し、古里の保健所職員として食生活改善に力を注いだ。

 在職時代、精神障害の患者を受け入れる医療機関は島前にはなく、患者が本土へ送られるのを見送ってきた。心の調子を崩し、ロープに縛られて島を後にする男性の姿が、記憶に焼き付く。「島後には病院があるのに雲泥の差だ。こんなことがあっていいのか」と憤りを感じ、空き家を探して居場所をつくり出した。資金難を乗り越え、授産所への格上げに道筋をつけ、施設所長を8年間務めた。

 国際交流に携わるようになったのは、ネパールで医療支援活動を行う鳥取大医学部の岩村昇医師(故人)からの依頼だった。岩村さんは草の根レベルの人的交流が平和と健康をつくると信じ、アジアと南太平洋地域の青年を招いて国内で研修をさせていた。西ノ島町でも1986年のタイからの研修生を皮切りに、2019年までに6カ国から22人を受け入れ、その中心的な役割を果たした。

 町内には日露戦争の日本海海戦で漂着したロシア兵の墓が残り、ロシアの人たちとの国際交流を始めるきっかけとなった。島の先人たちが受け継いできた供養を多くの人に伝えようと、住民グループ「あしたばの会」(5人)を結成。沿海州と交流する県事業と連携し、町内に招いたロシア人を墓に案内するなどしてきた。「隠岐に暮らす人の営みを知ってもらいたい」という思いからだ。

 両国の子どもたちが描いた絵画を交換し、互いの考えや文化を知る機会もつくってきた。「人との出会いは教えられることが多くて財産になる」と実感。市民レベルの行動が平和をつくると信じ、次代に受け継ぐ決意だ。

第61回文化賞

30年余り続けてきた国際交流の軌跡を、写真で振り返る佐倉真喜子さん=島根県西ノ島町美田

あしたばの会代表
  佐倉 真喜子さん(86)

     =島根県西ノ島町美田=

国際交流の促進に尽力

 地域に残る古文書を読み込み、地元の出雲市大社町の歴史を解き明かすことに力を注いだ。積み重ねた研究成果を基に、次世代への「語り部」の役も担う。

 子どものころから本を読むことが好きで、歴史研究は大学入学後に本格的に打ち込み始めた。3年時に歴史書を読み込むゼミを選択し、通史をなぞるだけでなく、一つの時代や出来事について、多様な見方をしようとする学びの在り方に知的興奮を覚えた。

 卒業後は教員として子どもたちに歴史の面白さを伝えようと意欲を燃やした。授業のために郷土史を研究し、他の教員と共に島根の歴史や偉人を紹介する教材を作った。

 1987年に、大社町(当時)の歴史をまとめる「大社町史」の編纂(へんさん)への協力を求められて参加した。出雲大社のお膝元であり、身が引き締まる思いで昼は学校の授業、夜は郷土資料の読解に明け暮れた。

 大社町史には編纂委員として20年以上携わり、主に中世から近世に関して編集執筆に力を注ぎ、88年の論文「中世都市杵築の性格」では、独自の知見を発表した。

 大社地域が出雲大社を中心とする宗教的な都市であっただけでなく、物流が盛んな商業地でもあったことを明らかにした。まさに、一つの時代や地域を多角的に検討する自身の研究スタイルの真骨頂と言える成果を挙げた。

 「郷土研究の成果は、地元の人々に返すことが大事」との思いから、教員退職後の2009年からは県内外で講演し、出雲の歴史文化を分かりやすく紹介している。11年から、出雲文化をテーマにした研究者による公開講座や、文化財の保存に取り組む「いづも財団」に所属。事務局長として、研究者らによる公開講座や、シンポジウムを基にした「いづも財団叢書(そうしょ)」シリーズの刊行など、裏方でも多忙な日々を送る。

 「大社のあちこちに歴史的なエピソードがある。そのような来歴を知ることから郷土を愛することが始まる」と山崎さん。きょうも、門前町を忙しく立ち回る。

第56回教育賞

真空ポンプを使って授業内容を考える秦明徳さん=松江市外中原町、城西ニコニコ交流館

島根わくわくサイエンス研究会代表
  秦 明徳さん(76)

     =松江市法吉町=

科学の楽しさ子どもに

 島根県内の小中学校と大学で理科教育に携わった経験を生かし、2013年に小学生を対象とした科学教室を設立した。小学校教員だった妻・澄江さん(74)と夫婦で始め、これまで900人が卒業した。現在は教員OBら20人が指導に当たる。「分かりやすい」と評判が広がり、定員30人に対して5倍の希望者があるほど。学生時代、恩師から教わった科学の楽しさを今の子どもたちに伝えている。

 理科の教員として長年、教壇に立った。島根大教育専攻科で学び、1971年から江津市立高角小学校や島根大教育学部付属中学校(現・島根大付属義務教育学校)などで勤務した。82年に兵庫教育大学大学院学校教育研究科で2年間の修士課程を修了。95年から島根大教育学部で理科教育学の教授として、指導法などを教えた。

 科学の楽しさを知ったのは大学での野外授業だった。地質学専門の先生の指導を受け、宍道湖南岸から北岸を歩いて回った。地質を観察すると石の種類がどんどん分かるようになった。予想を立てながら、島根半島の成り立ちを自分で考えた。「自然の不思議さや面白さを追求する体験はわくわく感やどきどき感がある。そのロマンを恩師は教えてくれた」と振り返る。

 頭や手を動かして自分なりに工夫して挑戦する理科教育を実践しようと、島根大の定年退職を機に2011年、松江市立小学校3校の児童に科学教室を開いた。13年に規模を拡大し、発達段階に合わせて5、6年向けと3、4年向けにコースを分け、月に1度開講する。宍道湖や島根半島に出かけ、生息する水生生物や地層を実際に見る野外授業をしたり、電磁石や二酸化炭素の正体を知る実験をする。

 楽しそうな表情で夢中になって実験に取り組む子どもの姿や科学に関わる進路に進んだ子どもがいるとやりがいを感じる。

 「参加したい児童がたくさんいるので若い指導者に続けてもらえるようにバトンタッチしたい」。次世代につなぐことを考えている。

第56回産業賞・第一部門(農林畜・水産)

マアジの脂質含有量を小型測定器で測る渡辺祐二さん=浜田市原井町、卸売市場

浜田市水産物ブランド化戦略会議専門部会会長
  渡辺 祐二さん(66)

     =浜田市熱田町=

浜田のマアジ 銘柄魚に

 浜田漁港に水揚げされるブランドマアジ「どんちっちアジ」の生みの親の一人だ。大分県で水揚げされる関アジを筆頭に、各地の銘柄がひしめく中、脂質含有量を数値化し科学的に味のよさを証明する手法を確立。後発産地ながら高値で取引される銘柄魚に育て上げた。

 浜田市大辻町育ち。大学卒業後にUターンし、中型巻き網漁船でアジやサバを取る家業の裕丸漁業生産組合で販売や経理を担う。年間1万匹以上のマアジに触れ、厚みや身の張り具合を見れば脂質含有量を約8割の確率で言い当てられるようになった。

 1990年ごろ、浜田漁港の水揚げ量が頭打ちになり、主力のイワシは減りアジが増える魚種交代が起きた。「今手を打たなければ浜田漁港の未来はない」。46歳だった2002年、漁業や仲買の団体などで設立した市水産物ブランド化戦略会議の専門部会会長を二つ返事で引き受けた。

 一般的なマアジの脂質含有量は旬の春-夏で3・5%ほどに対し、県西部沖のマアジは10%以上にもなる。「脂のりがよく関東の嗜好(しこう)にも合うはずだ」。築地市場(東京)に持ち込んだが、当初は知名度不足で全く見向きもされなかった。そこで05年に県水産技術センターに掛け合い開発したのが、光の照射で身を傷つけず瞬時に脂質含有量を測れる小型測定機だ。卸業者の目の前で実演販売する目新しい売り込み方で、市場関係者やマスコミ各社の注目を集め、魚価向上と販路拡大の足掛かりをつくった。

 4~9月に県西部沖で水揚げされた重さ50グラム以上、平均脂質10%以上のマアジだけがブランド認定される。毎朝競りの前に脂質を測りシーズン中は5回以上、機器の数値と実物とにずれがないかを調べる。今年で専門部会会長を務めて20年。厳格な規格管理を先導し、今なおブランド力の維持に力を注ぐ。

 「地元関係者が利害を超えて協力したからこそ全国的にまれなブランド魚ができた。次世代に引き継ぐことが今のやりがいだ」。漁船が頻繁に行き交い、威勢の良い競り人の声が響く浜田漁港を守るため、道標(みちしるべ)を探し続ける。

第56回産業賞第二部門(商工鉱・観光・建設)

野菜のおいしい食べ方を伝える安部寿鶴子さん(左)=松江市野原町、道の駅本庄

道の駅本庄企業組合専務理事
 安部寿鶴子さん(64)

     =松江市上本庄町=

農産物と地域を橋渡し

 国道431号沿いの道の駅本庄(松江市野原町)には最初、非常勤のレジ打ちで入った。商売や農業の経験がない中で、特産品の西条柿や赤貝を使った数多くの商品開発に携わり、駅に来られない高齢者のために移動販売車も走らせた。働き始めて16年がたち、道の駅は地域に欠かせない振興拠点となった。「みなさんが支えてくれた。人の輪の中で今の私がある」と笑顔を見せる。

 安来市出身で、結婚を機に松江市上本庄町に移住した。福祉職を長年務めた後、2006年5月に道の駅に入り、3カ月後に店長に抜てきされた。農業は素人で野菜や柿などの作り方も知らなかったが、一つ一つ生産者に教えてもらった。野菜のおいしい食べ方を聞けば、パソコンで説明文を作り、商品と一緒に店頭に並べた。「新しく気付いたことや驚いたことをお客さんにそのまま伝える。要は、橋渡し」。地域の豊かな恵みを広めたい一心だった。

 地元素材を使った商品はこれまで約15種類開発。中海で養殖した赤貝で小さいものは市場で売れないため「赤貝めしの素(もと)」に加工し、今では定番商品の一つとなった。中には失敗もあったが、「最初は売れるか分からないけど、うまくいくように努力してきた」と力を込める。

 地域のスーパーの閉店や運転免許を返納する高齢者の増加を受け、22年度に移動販売車の本格運行を開始。道の駅に自ら持ち込むのが難しい生産者のために野菜などの集荷も併せて行う。「出荷できないからやめるのではなく、集めに行くから作り続けてほしかった」。週2日、自ら運転して計12カ所を回る。

 経験ゼロから始めた仕事だったが、人が好きで続けてきた。道の駅に知った顔が見えると「久しぶりです。今日はバスで来たの?」と気さくに声をかける。「道の駅を地域の核として、みなさんが集まれるにぎわいの場にしていきたい」。どれだけ経験を積んでも初心が大事だと、きょうも16年前と同じ気持ちで店頭に立つ。

第56回社会賞

里子の写真を収めたアルバムを眺めながら思い出を話す三原一郎さん(左)と恵子さん=出雲市佐田町大呂

島根県里親会副会長
  三原 一郎さん(75)恵子さん(75)

     =出雲市佐田町大呂=

夫妻で里子8人を養育

 家庭事情などで親と暮らせない子どものため1989年に里親登録した。以来、里子7人を受け入れ今も男の子1人を養育する。甘えたい子、その気持ちの裏返しで心を開かない子…。実の親と関わるという大切な時期に恵まれなかった子どもたちに、夫妻で精いっぱい向き合ってきた。

 夫妻は1971年に結婚。子宝に恵まれず、佐田町内で里親登録している人の話を聞くうちに、2人で取り組んでみようと89年3月に里親に登録した。

 初めて受け入れた1歳の女の子との出会いは、今も鮮明に記憶する。抱っこされるのも嫌がるほど神経質で苦労させられた。一方、同居していた一郎さんの両親にはべったりとなついた。女の子は両親に見守られて寝た後、抱きかかえられて一郎さん夫妻の部屋に行く日々が続いた。

 一緒に外に行くのも嫌がりなかなか心を開いてくれなかった。恵子さんはある雪の降る日、外で布おしめを洗っている時に「本当にこの子を育てられるだろうか」と不安にかられ、涙が出たという。それでも身構えるようにしていた女の子が慣れてきたのか、なじむようになった。数カ月もすると、すっかり絆が強まり、後に養子縁組した。

 どの子にも普通に接したという夫妻。社会に出て恥ずかしい思いをしないよう時には厳しく愛情を注いだ。養子縁組した2人の子も今や親となり、その他の子どもたちとも交流を続ける。思い出の写真を収めたアルバムを見返し、夫妻で「どの子もかわいい」と目を細めた。  里子の養育に力を入れる一方、一郎さんは2016年から出雲地区里親会長と、島根県里親会副会長を務める。

 一郎さんによると、出雲市内で里親登録している人は約40人で3分の2が60歳以上。高齢化が課題だ。一郎さんは地域イベントで里親募集ブースを設けたり、自身の経験を交えた講演をしたりと、積極的に情報発信する。地域に里親がいないために転校を余儀なくされる子もいる。一郎さんは「各中学校区に1人は登録者を確保したい」と望み、今日も啓発活動を続ける。

2022年山陰中央新報社地域開発賞 選考委員(順不同、敬称略)

[第67回 スポーツ賞]
島根大学名誉教授 齋藤 重徳
島根県環境生活部スポーツ振興監 中澤 信善
島根県スポーツ協会専務理事 安井 克久
島根県スポーツ推進委員協議会会長 久家  彰
島根県高校体育連盟会長 宇津  誠
島根県中学校体育連盟会長 安達 正治
[第61回 文化賞]
島根大学法文学部長 丸橋 充拓
島根県教育委員会教育長 野津 建二
島根県市町村教育委員会連合会会長 杉谷  学
島根県環境生活部長 竹内 俊勝
NHK松江放送局長 増田 智子
TSKさんいん中央テレビ代表取締役社長 田部長右衛門
[第56回教育賞]
島根大学教育学部長 河添 達也
島根県教育委員会教育長 野津 建二
島根県市町村教育委員会連合会会長 杉谷  学
島根県高校PTA連合会会長 中村  学
島根県PTA連合会会長 安部  慎
島根県高校文化連盟会長 木原 和典
[第56回産業賞]
島根大学生物資源科学部長 川向  誠
島根県農林水産部長 西村 秀樹
島根県商工労働部長 田中 麻里
島根県商工会議所連合会会頭 田部長右衛門
島根県商工会連合会会長 高橋日出男
島根県農業協同組合中央会会長 石川 寿樹
漁業協同組合JFしまね会長 岸   宏
[第56回社会賞]
島根大学名誉教授 多々納道子
島根県教育委員会教育長 野津 建二
島根県環境生活部長 竹内 俊勝
島根県健康福祉部長 安食 治外
島根県警察本部長 中井 淳一
島根県社会福祉協議会会長 小林 淳一
島根県連合婦人会会長 野々内さとみ