2023年山陰中央新報社地域開発賞 表彰式

社会貢献 6人決意新た  (2023/10/31)

松尾倫男社長(右)から表彰賞状を受け取る砂流啓二さん=松江市千鳥町、ホテル一畑

 島根県内の各分野で地域の発展に尽くした人を顕彰する「山陰中央新報社地域開発賞」の表彰式が31日、松江市千鳥町のホテル一畑であり、文化、教育や産業など5賞6部門の受賞者6人が決意を新たにした。

 受賞者は前田将良(まさよし)さん(53)=スポーツ賞、浜田市旭町▽山穂(めぐみ)さん(78)=文化賞、知夫村▽村上真奈さん(34)=教育賞、松江市浜乃木6丁目▽砂流(すながれ)啓二さん(68)=産業賞第1部門(農林畜水産)、安来市上坂田町▽小川知興(ともおき)さん(48)=同第2部門(商工/観光/建設)、大田市温泉津町▽マソーラ・ミリアン・リウエ・イモトさん(51)=社会賞、出雲市古志町。

 表彰式では、山陰中央新報社の松尾倫男社長が「活力ある地域社会づくりのため、ますますご活躍いただきたい」とたたえ、表彰状と副賞を贈った。

 また、受賞者一人一人が受賞の喜びと、地域への思いを語った。

 元体操五輪選手のキャリアを移住先の浜田市で生かし、ジュニア世代を育成する前田さんは「2030年に島根である国民スポーツ大会で結果を残したい」と意欲を見せた。

 知夫村に伝わる風習や行事を丹念に調べ、出版を通じて情報発信している山さんは「地道な活動が評価さた」と喜び、中高生の自習スペースを設けるなど、若い人たちの居場所づくりに奔走する村上さんは「地域の後押しを受けられたからこそ続けられた」と感謝した。

 河川敷で牧草を育て、飼料の自給に加え景観美化にも取り組む砂流さんは「酪農の大切さを発信していきたい」と強調。老舗の商店を営み、地域の若手を巻き込んだイベントを先導する小川さんは「みんなの居場所を地域に残したい」と熱い思いを披露した。

 県内初の外国籍の少年補導委員として、出雲市が目指す多文化共生社会の構築に一役買っているマソーラさんは「私が選ばれて心からうれしい」と喜びを語った。

2023年山陰中央新報社地域開発賞 受賞者の横顔

 山陰中央新報社が、島根県内で地域社会の発展に尽力、貢献する各分野の功労者を顕彰する「2023年地域開発賞」の表彰式が31日、松江市千鳥町のホテル一畑である。表彰に合わせて、スポーツ▽文化▽教育▽産業(第1部門=農林畜水産、第2部門=商工・観光・建設)▽社会-の各賞に選ばれた6人の横顔を紹介する。

第68回スポーツ賞

小学生を指導する前田将良さん=浜田市旭町丸原、旧浜田高校今市分校

旭なごみ体操クラブ代表
  前田 将良さん(53)

     =浜田市旭町木田=

元日本代表 体操を普及

 体操の元日本代表選手で約20年前、浜田市旭町に移住した。競技の普及に尽力し、体が大きく成長する前の小中学生に対し、基礎的な動きを丁寧に指導。「自ら考えることが上達のすべ」が信念だ。

 京都府宇治市出身。選手としては、栄光と挫折を味わった。小学生で体操を始め、大学卒業後、強豪の河合楽器製作所体操部へ入部。1996年のアトランタ五輪で団体代表に選ばれた。

 しかし、晴れの舞台であるはずの試合当日、鉄棒の大技を練習していた際、落下して左腕を骨折した。「けがは誰にでもある。次も代表の座を狙えばいい」と誓ったが、けがが響き、30歳で引退を決断した。その後同部のコーチを務めたが、2001年の米中枢同時テロをきっかけに、会社の製品の輸出がままならず業績が悪化。体操部は休部となり、自身も社を去った。

 そこで人生の再スタートを切ったのが、広島県在住の義父から紹介された旭町(現浜田市旭町)。体操に未練はない、はずだった。だが、05年の浜田市内の小学生体操大会で、市立木田小学校が出場することになり、保護者から指導を請われたのが転機となった。

 体育館で週1回、指導を始めた。上達した児童が大会で群を抜く技を見せると、注目が集まった。07年には、旧浜田高校今市分校体育館を活用し「旭なごみ体操クラブ」を設立。今は園児から中学生まで約60人が週3日、通う。

 練習では倒立やつま先を美しく伸ばすなど、基礎から教えるとともに、自分の頭で動きをイメージする大切さを説く。高校時代に厳しく鍛えられても、自分の裁量で練習する大学では伸びなくなる選手を当時から見てきた。教え子が自ら考え、苦労した末に技ができた瞬間を見た時は笑みがこぼれる。

 クラブ出身者が集まる旭中学校体操部は男子団体で18、19年の中国大会を制し、全国大会へ出場した。「先でほかのスポーツをやろうとも、ここで学んで良かったと思える場所にしたい」。まなざしは常に温かい。

第62回文化賞

御神木に巻かれた蛇巻を見る山穂さん=島根県知夫村

知夫村文化財保護審議会会長
  山 穂さん(78)

     =島根県知夫村=

村の伝統行事 長年調査

 無病息災を願って大型の藁(わら)蛇(へび)を作り、御神木に巻き付ける「蛇巻(じゃーまき)」や、弘法大師の命日(旧暦3月21日)に、各地区への来訪者を料理で接待する「お大師参り」など、知夫村に伝わる伝統行事を調査してきた。風習の由来や、村の古老から聞いたかつての様式といった貴重な記録を、2015年から毎年一つのテーマごとに「文化財再発見シリーズ」として冊子にまとめ、村内で配布する。

 知夫村の薄毛地区出身。19歳で郵便局員となり、2004年まで40年勤め上げた。配達をしていると「古い家から珍しい物が出てきた」といった話を見聞きする。そのたびに文化財の担当者に存在を伝えた。

 自身が編集を務める「郵便局だより」を23年にわたって発行し、全戸に配布。その中で村内に伝わる古い事柄や食習慣、方言を扱うコーナーを設け、豊かな村の文化を多くの住民と共有した。

 「屋号調査」や「村の年中行事」といった身近な文化・風習を、村文化財保護審議委員と手分けして調査と執筆を行う。隠岐郡4町村で発行される『隠岐の文化財』にも発表し、村外にも知見を広く伝えている。

 地道な活動が評価され、1992年に新修知夫村誌の編さん委員と郷土資料館運営委員に選ばれた。編さんに携わる中で先達から「古いことを書く必要はない。昨日今日のことを書いておけばいい」と教わった。歴史の探究は膨大な労力や時間を要する。それよりも、今分かることを記録するというスタイルを心がけてきた。

 「楽天家で、完璧を求めない」というのが長続きの秘訣(ひけつ)だ。新型コロナウイルスの影響で風習や行事の中止が長引いた。シリーズで記録した内容は、風習の風化を防ぐ観点から重みを増しており「思い立って行動したのが正解だった」と振り返る。当初は自身が中心だった執筆を、近年は複数の執筆者で地区を分担するスタイルに変えた。「皆さんと一緒に執筆ができたのが何よりの喜び」といい、次のテーマ探しに余念がない。

第57回教育賞

理想の自学スペースについて話す村上真奈さん=松江市内
 

のぎ自学室代表
  村上 真奈さん(34)

     =松江市浜乃木6丁目=

子どもの居場所を開設

 中学、高校生の時に自習場所がなくて困った経験から2015年、地元の乃木公民館(松江市浜乃木5丁目)で中高生向けの自学スペース「のぎ自学室」を開いた。

 新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けていた22年には、オープンキャンパスに行けない中高生のために、オンラインで社会人や大学生の話を聞く機会を設けた。「学校でも塾でもない、集中でき、ほっとする空間をつくりたい」という思いで活動している。

 島根県外の大学を卒業後、名古屋市内の教育系の広告代理店に勤務。14年に松江にUターンした。働きたい人の職業選択の相談に応じる「キャリアコンサルタント」の資格取得のため、勉強しようと図書館へ行くと自習席は満席。飲食スペースで参考書を広げると、注意を受けた。

 コンビニエンスストアの休憩スペースで肩身が狭そうに勉強している中高生の姿に自分の過去を重ね合わせた。

 「昔と全く変わっていない」

 同じ志を持った知人と公民館の扉をたたいた。スタッフは温かく迎えてくれ、自学室はオープン。しかし当初の地域住民の反応は歓迎の声の一方、「子どもが来るわけがない」と疑問視する意見もあったという。

 利用者だけではなく、周りの人から理解してもらう必要を感じ、子どもの居場所の大切さを伝える勉強会を開いた。「子どもは親とけんかして1人でいたい時もある。過ごせる場所の選択肢は多い方がいい」と説いた。

 今は月2回開き、1回につき10人弱が自分の時を過ごす。運営には島根大の学生6人も協力。自学室で学んだ学生や、海外の大学院に通う学生の講演会などを開き、好評を得た。

 仕事を持ちながらの運営は忙しく、やめようと思ったこともある。だが、学習室での自習を経験したOB・OGから「自分の居場所でした」「通うのが楽しみ」という励ましの言葉や感想をもらうと、「できる範囲で理想を求めたい」と、もう少し続けようという気持ちになる。

第57回産業賞・第一部門(農林畜・水産)

乳牛の体を拭く砂流啓二さん=安来市上坂田町、砂流牧場

飯梨川牧草連絡会会長
  砂流 啓二さん(68)

     =安来市上坂田町=

河川敷を牧草地に再生

 安来市北部の飯梨川下流にある河川敷15ヘクタールで牧草を育て、市内の和牛繁殖農家や酪農家計15戸で粗飼料として活用している。きっかけは輸入飼料の高騰で危機感を抱いたことだった。餌の自給のため、2007年に関係者で飯梨川牧草連絡会をつくった。活動は、河川敷の景観維持や、市街地の治水の面でも一役買っている。  自らも飯梨川近くで約100頭の乳牛を飼う酪農家。輸入飼料の高騰に悩んでいた時にふと振り向くと、牧場の背後に、手つかずの河川敷が広がっていた。  雑草や竹が茂る河川敷を牧草地にできないか-。  市内の和牛繁殖農家や酪農家は零細が多く、個々の努力には限界があり「ぜひ、やってほしい」との声に背中を押された。  荒れ放題で起伏もあった河川敷を牧草地に再生するのは簡単ではなかった。賛同した建設業者に土地をならしてもらい、地道に石やごみを拾って整えた。  河川敷は排水、風通しや日当たりが良い半面、台風や洪水の被害をもろに受ける。一晩で牧草地2~3ヘクタールを失う苦労も経験した。  松江、安来両市内の営農組合と連携し、飼料用の稲や米を生産してもらい、和牛繁殖農家や酪農家が活用できる体制も築いた。輸入品に頼っていた自らの牧場の飼料自給率は7~8割となった。米の需要が減り、減反や転作を求められている農家にとっても慣れた米作で水田を維持できるメリットがある。  稲作の農家が処分に困っていたもみ殻を牛の寝床に活用し、代わりに、牛ふんを堆肥として提供するシステムも構築した。この成功体験は「畜産は産業の柱だ」との自負を強めた。子どもへの教育の場としても牧場を活用し、畜産の魅力を伝える。  「スイスやニュージーランドは家畜と牧草地、地域がうまく融和して絵になるから観光地にもなる。安来でも自然を生かせるといい」と、生まれ変わった牧草地のさらなるアピールの方策を思案している。

第57回産業賞第二部門(商工鉱・観光・建設)

販売する年代物のバイクを前に笑顔を見せる小川知興さん=大田市温泉津町温泉津

小川商店代表取締役
 小川 知興さん(48)

     =大田市温泉津町温泉津=

本業とイベント二刀流

 かつて石見銀山で採れた銀の積み出し港だった温泉津で、江戸時代から続く老舗企業の12代目。高齢化が進む社会情勢の中にあって、挑戦心と行動力で業績を拡大し、地域のイベントも企画して成功に導いてきた。まちづくりのキーパーソンとして地域を力強くけん引する。

 1688(元禄元)年に屋号「たばこや」として創業した小川商店は、海鮮問屋、宿場、木材問屋、底引き船団などに従事した記録が残る。時代のニーズに合わせて事業内容を柔軟に変え、看板をつないできた。

 自身は大学卒業後、輸入車ディーラーでの勤務を経て2002年、27歳でUターンした。会社は、石油や運輸、総合スーパーマーケット、不動産などの事業を展開していたが、この20年間で自動車整備や飲食、宿泊施設の運営も新たに手がけた。

 入社した後間もなく、地区の空き家を「カフェ&バー路庵」に改装。当初は個人の事業として「ためていたマイホーム資金を突っ込んだ」。家族には反対されたが、店舗は軌道に乗り、温泉津を代表するおしゃれな飲食店として明かりをともし、地域住民のよりどころとなっている。

 事業承継を目的としたM&A(合併・買収)にも積極的だ。13年から市内のガソリンスタンドを手始めに自動車販売・整備業やIT企業など5社を買収。既存事業との相乗効果で新規客層の開拓につなげている。何より、前の経営者が培ったノウハウや雇用を引き継いでいる点で地場産業への貢献は大きい。

 持ち前の行動力はまちづくりの活動でも発揮された。地域最大のイベント「温泉津温泉夏祭り」では、企業の協賛金が減少して開催が危ぶまれた状況に対し、来場者から入場料を取る方式を提唱し、22年に導入した。賛否がある中で祭りの内容の充実を図った結果、来場者3千人を集めて、成功に導いた。

 地域の人口減少はますます進んでいるが、「人が住み続ける限り、ニーズはある」と信じる。常に挑戦し、新しい道を切り開く。

第57回社会賞

ポルトガル語で作った非行防止啓発チラシを確認するマソーラ・ミリアン・リウエ・イモトさん=出雲市塩冶有原町2丁目、出雲署

少年補導委員
  マソーラ・ミリアン・リウエ・イモトさん(51)

     =出雲市古志町=

異文化理解進む出雲に

 島根県内初の外国籍の少年補導委員。2019年4月に委嘱され、ブラジル人が多く住む出雲市で、言葉や習慣に不慣れな外国籍の子どもたちが、日本の社会でもしっかり育っていく環境づくりに腐心している。

 ブラジル・サンパウロ州出身の日系2世。1992年に来日し、埼玉県内の病院でヘルパーとして勤務。結婚、出産などで帰国と来日を繰り返し、2009年に家族3人で出雲市に転入した。大手製造業で通訳として活動する。

 4年前の委嘱当時、出雲市内には5千人以上の外国人が住んでおり、7割以上がブラジル国籍だった。

 昨年、出雲署の管内では外国人の子どもが落書きや万引などで補導される事件が相次いだ。日本語の非行防止啓発チラシをポルトガル語に翻訳し、市内の全小中学校に配った。学校から指導に役立ったと感謝する声があった。

 こうした外国籍の子どもを取り残さないために、大人の振る舞いが大事だと考えている。

 ブラジルなどの外国文化をまず大人が理解する必要があるとして、市内の少年補導委員約120人を対象にした外国文化講座で講師を務め、双方の垣根をなくすための下地づくりに汗を流した。

 また、児童虐待防止を目的に管内の少年補導委員でつくる「子育ておうえん隊」に所属。親子で作るブラジル料理のレシピや、「悩みを1人で抱えないで」とポルトガル語で記したメッセージカードを作って配り、ブラジル人の子育て世代から、好評を得ている。

 地道な活動が実り、子どもとの接し方について相談を受けることが増えた。「自分の価値観を押し付けるのではなく、子どもをしっかりと見てほしい」と、自身の子育て経験から感じたメッセージを伝える。

 まだ、外国籍の人と日本人との間には見えない壁があると感じている。「日本人、外国人関係なく笑顔で過ごせる街にしたい」。理想とするその日が来るまで、街頭を走り続ける。


2023年山陰中央新報社地域開発賞 選考委員(順不同、敬称略)

[第68回 スポーツ賞]
島根大学名誉教授 齋藤 重德
島根県環境生活部スポーツ振興監 中澤 信善
島根県スポーツ協会専務理事 竹内 俊勝
島根県スポーツ推進委員協議会会長 久家  彰
島根県高校体育連盟会長 山﨑  誠
島根県中学校体育連盟会長 安達 正治
[第62回 文化賞]
島根大学法文学部長 丸橋 充拓
島根県教育委員会教育長 野津 建二
島根県市町村教育委員会連合会会長 杉谷  学
島根県環境生活部長 西村 秀樹
NHK松江放送局長 増田 智子
TSKさんいん中央テレビ代表取締役社長 田部長右衛門
[第57回教育賞]
島根大学教育学部長 河添 達也
島根県教育委員会教育長 野津 建二
島根県市町村教育委員会連合会会長 杉谷  学
島根県高校PTA連合会会長 木村 直樹
島根県PTA連合会会長 坂手 洋介
島根県高等学校文化連盟会長 志波 英樹
[第57回産業賞]
島根大学生物資源科学部長 上野  誠
島根県農林水産部長 野村 良太
島根県商工労働部長 新田  誠
島根県商工会議所連合会会頭 田部長右衛門
島根県商工会連合会会長 高橋日出男
島根県農業協同組合中央会会長 石川 寿樹
漁業協同組合JFしまね会長 岸   宏
[第57回社会賞]
島根大学名誉教授 多々納道子
島根県教育委員会教育長 野津 建二
島根県環境生活部長 西村 秀樹
島根県健康福祉部長 安食 治外
島根県警察本部長 中井 淳一
島根県社会福祉協議会会長 小林 淳一
島根県連合婦人会会長 浅津 知子