政府は、新型コロナウイルスの緊急事態宣言を沖縄以外の9都道府県で20日をもって解除し、うち東京などは7月11日までまん延防止等重点措置に移行すると決めた。同措置も解除されれば、東京五輪の観客数の基準となる大規模イベントの人数上限を1万人にする。

 政府は1万人上限を「五輪と無関係」とするものの、大会組織委員会などはこれに沿って観客を入れる方向だ。政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長らは、観客入り開催は感染再拡大につながるとして規制強化を求める提言を準備してきたが、機先を制した形だ。

 五輪成功を政権浮揚につなげたい菅義偉首相が観客を入れることにこだわった。だが感染の「第5波」が到来し開催中に再宣言が必要になるとする専門家の試算も出る中、五輪ありきで国民の命と健康を守り切れるのか。懸念せざるを得ない。

 緊急事態宣言の解除後1カ月程度、1万人を上限とする経過措置は前例があるが、今回はまん延防止措置後にも同様のルールを設け8月まで適用する。これまでは措置解除後、定員の50%か5千人のどちらか多い方が上限となり、例えば6万8千人収容できる国立競技場は3万4千人まで観客動員が可能だったが、今度は1万人までとなる。

 これをもって政府は、観客が一気に増えて感染を再拡大させないための規制強化だと強調する。しかし無観客が最も感染リスクが少ないと指摘する専門家の見解に照らせば、制限を緩くすると見られても仕方あるまい。

 大会組織委員会は収入900億円を見込んだチケットの42%を販売済みだが、1万人まで観客を入れられるようになれば、屋外の大規模競技場を除く多くの会場では再抽選、払い戻しをしないで済む。開幕まで1カ月余りとなる中、上限1万人は組織委側にとって経済的、事務的に大きな負担軽減になることも今回の決定の背景にはある。

 一方、国立感染症研究所などのチームは、観客を入れた五輪が無観客の場合に比べコロナ感染者を累計で1万人増やし、感染力が強いインド株の影響を小さくみても五輪期間中に緊急事態宣言が必要となる恐れがあるという試算をまとめた。

 感染収束の決め手であるワクチンは7、8月にはまだ行きわたらない。専門家が心配するのは、観客を入れた五輪が人々に「移動したり集まったりしても良い」と受け止められ、人が集まる機会や県境を越えた人流が各地で増えて感染が広がってしまう可能性だ。酒類提供が東京などで容認されれば、観戦後の飲食店で感染が拡大しかねない。

 実際、プロ野球などのスポーツイベントは大きな感染源になっていない。しかし専門家が「五輪は規模が全然違う。より厳しい基準が必要だ」と言うように、短期に集中して多くの会場で一斉に競技が行われれば、国内全体で五輪以前とは比較できないほどの人流が生まれる。

 夏休みやお盆の時期とも重なり、インド株も拡大していることから専門家の危機感は強い。五輪に懸念を抱く多くの市民も共有する認識だろう。

 五輪へ着々と布石を打つ政府の動きを見ると、第5波が来ても開催中は運営に差し障ると対策強化をためらうのではないかとの疑念さえわく。五輪優先で国民の安心安全を後回しすることは、当然あってはならない。