江津市が創業支援を目的に2010年に始めたビジネスプランコンテスト「Go-Con(ゴーコン)」。若者の定住や雇用創出につなげる有効な手法として独自性が注目され、全国から視察も相次いだ。成功の秘密を探ると、金融など関係機関の継続支援や参加者同士の支え合いといった「江津モデル」の特徴が見えてきた。 (福新大雄、三浦純一)
「よーし、よーしっ」。県西部でペットシッターサービスを手掛ける都志見桂子さん(39)=同市都野津町=が犬を抱き寄せて頭をなで、目を細めた。
江津市から県外の専門学校に進み、ドッグトレーニングの技能を習得。企業で犬の飼育管理業務などに携わった後、Uターンした。会社勤めしながら「地域でペットを飼う家庭が増えている。世話やトレーニングのニーズに応えたい」と、19年にコンテストに出場。優秀賞となり起業した。
■助言受け質高める
コンテストは誘致企業の撤退や建設業の廃業で人口流出が続く中、地域に根付くなりわいを創る仕組みとして構想。毎年1回募集し、大賞受賞者に起業資金100万円を贈る。
ビジネスプランのコンテストは全国で増加傾向にあるが、江津市の場合は参加者の発表だけで終わらないのが特徴だ。発表本番までに「ブラッシュアップ研修」が何度も行われ、先輩起業家をはじめ、金融機関や市職員らから事業計画のアドバイスを受け、完成度を高める。都志見さんは「いろいろな人に助言をもらい、サービスの質を上げるヒントや顧客とのコミュニケーションの取り方を学べた」と振り返る。
コンテストを経て起業したのはこれまで計26件で、全応募件数の2割に及ぶ。地元食材を使った飲料品開発や空き家の改修など、多様なビジネスが誕生した。市が18年に実施した調査によると、起業後の売上高は計3億5千万円、雇用者数(コンテスト参加者を除く)は計39人を数える。
■支援体制が充実
創業者の他県への引っ越しはあるが、廃業がないことも成功事例として語られる一因。背景にコンテスト終了後のバックアップ体制の充実がある。審査に参加する金融機関、江津商工会議所が融資や経営の相談に乗る。
スタート時から関わる市地域振興課の中川哉課長は「コンテスト参加者同士がお互い相談に乗り、刺激を受けており、いい流れが生まれている」と手応えをつかむ。コンテスト出場を共通点に起業後も取引先を紹介したり、販促イベントを共催したりと、つながりが保たれているという。
課題は、U・Iターン者の全国的な誘致合戦などで応募者が減少傾向にあること。市は市外へのプロモーションを強めるとともに、起業ノウハウを小・中・高校の教育に導入し、地元人材の育成に力を入れたい考えだ。