島根県吉賀町出身の彫刻家・澄川喜一さん(90)が、山陰中央新報で連載した自伝「そりとむくり 彫刻家澄川喜一」がこのほど、発刊された。2020年10月~21年3月、文化面に掲載した原稿に加えて、新たなコラムや関係者の寄稿文、代表的な作品の写真を収録。20年に文化勲章を受けた澄川さんの歩みと業績をまとめた。
澄川さんは、山口県立岩国工業学校(現・山口県立岩国工業高校)在学中に彫刻家を志し、1958年に東京芸術大彫刻科を卒業。木彫の「そりのあるかたち」シリーズで注目された。東京スカイツリーのデザイン監修をはじめ、全国各地のモニュメントや巨大構造物に関わった。
81年に同大教授、95~2001年、学長を務め、多くのアーティストを育てた。04年に日本芸術院会員、08年に文化功労者に選出された。
自伝では13歳まで過ごした故郷や、大学の恩師で木彫の大家・平櫛田中(ひらくしでんちゅう)さんから受け継いだ創作者としての心得、日本の木や工作物が持つそり(湾曲)、そぎ(削ぎ)、むくり(膨らみ)から発想した作品など、抽象彫刻のパイオニアとしての足跡を記す。
東京スカイツリーや東京アクアラインの「風の塔」といった一大プロジェクトの舞台裏も明かす。島根県芸術文化センター・グラントワ(益田市有明町)については、構想段階からの関わりを振り返りながら、文化を生かしたまちづくりへの思いを語る。
寄稿者は同じ吉賀町出身のファッションデザイナー森英恵さんや、建築家の内藤広東京大名誉教授など8人。澄川さんが手掛けた全国の野外彫刻・環境造形の所在地一覧や、グラントワ内の島根県立石見美術館が所蔵する澄川さんの主要作品も紹介している。
山陰中央新報社・3850円。
(斎藤敦)