中国電力島根原発2号機(松江市鹿島町片句)を巡り、米子市議会が3日、再稼働の是非を問う住民投票の条例案を賛成少数で否決した。議長を除く市議25人のうち、賛成は10人だった。避難計画の対象エリアに含まれる原発30キロ圏内の米子市民が再稼働問題に意思表示をしたいと願う声は届かず、住民投票は実施されないことになった。 (田淵浩平)
賛成したのは、会派「よなご・みらい」の4人と共産党市議団の3人、信風の2人、一院クラブの1人。討論では、よなご・みらいの土光均議員が「原発事故が起きれば影響を受けるのは市民であり、住民が意思を伝える重要な手段だ」と住民投票の意義を説いた。
これに対し、反対討論を行った信風の中田利幸議員は「対立を生みやすい二者択一の住民投票ではなく、多様な意見を踏まえた合意形成が必要」と訴えた。
採決では、最大会派・蒼生会の8人と公明党議員団の4人、政英会の2人、信風の1人が起立せず、反対の意思を示した。
住民投票の実施は、市民団体「島根原発稼働の是非を問う住民投票を実現する会・米子」が1月下旬、1万3364人分の署名を集めて伊木隆司市長に直接請求していた。
市民団体の河合康明共同代表は「結論ありきの議論に感じた。市民の声は聞いてもらえなかった」と話した。
条例案が否決されたことについて伊木市長は「私が反対意見を付けて条例案を提出したことが、一定の理解を得られたと思う。民主主義のルールに基づくプロセスを踏んだ」と強調。その上で「再稼働の是非は国が最終判断すべきだ。われわれは施設が安全かどうかを判断する」と述べた。
島根2号機の再稼働の是非を問う住民投票を巡っては、立地自治体の松江市と周辺自治体の境港市でも1月に市民団体が条例制定を直接請求しており、それぞれ2月中に市議会で条例案が審議される見通し。出雲市では2月11日まで直接請求に向けた署名活動が続けられる。
<解説> 民意把握の対案示せ
11年前の東京電力福島第1原発事故を受けた島根原発2号機の再稼働議論は、安全性の確保、電力需給、環境問題など、さまざまな論点を抱える。米子市など原発から30キロ圏内の周辺自治体には、避難計画の策定が義務付けられた。だからこそ市民に丁寧に情報を提供し、民意を把握する必要があるにもかかわらず、市議会は「二者択一」の議論はなじまないとの理由で否決した。市民の代表を標榜(ひょうぼう)する議会として責任を果たしたのか、疑問が残る。
米子市民が原発に対する関心を高め、意思を表示できる機会を失った。伊木隆司市長は条例案の審議過程で、原発は国策であり、再稼働は国が判断すべきだと主張している。それなら賛否に関する市民の意見は誰が反映するのか。市長と市議会は、住民投票を否定した後、どのようにして多様な意見をすくい上げ、原発に向き合うつもりか、市民に具体的に示す必要がある。
(米子総局報道部・田淵浩平)