初夏が終わり、日差しが強くなる本格的な夏が近づいてきた。日光に含まれる紫外線を多く浴びて日焼けすると肌のしわやしみに加え、皮膚がんにもつながる恐れがある。日焼けの原理や予防方法について、島根大医学部皮膚科の山﨑修教授(54)に聞いた。(Sデジ編集部・吉野仁士)
▼日光は可能な限り避けて
山﨑教授は皮膚に生じる悪性のがんの専門治療を行う、岡山大学病院メラノーマセンター(岡山市)のセンター長を務めた。現在は皮膚がんを中心に、皮膚の病気全般の研究に携わる。

環境省によると紫外線は日光に含まれる電磁波の一種で、人体のたんぱく質を変性させたり細胞のDNAにダメージを与えたりする働きを持つ。地上に届く紫外線量は地域の高度や日照時間によって違うとされ、夏に多く冬に少ない。北海道より沖縄県の方が年間を通して2倍多いという。晴れの日の直射日光にのみ含まれる印象があるが、曇った日でも雲が薄い場合は晴れの日の約8割の紫外線が降り注いでいるらしい。
山﨑教授は「人によって日焼けしにくいという人はいるが、体質にかかわらず紫外線は可能な限り避けた方がよい」と強調する。紫外線由来とみられる皮膚がんを発症する人の多くが高齢者。若い頃から長年、皮膚の細胞に蓄積した紫外線が原因で、高齢になってから症状が現れる人がほとんどだという。
紫外線は人体の免疫機能維持などに必要なビタミンDを生成するため「日光浴が体に良い」とされることがある。ただ、山﨑教授は「日常生活で浴びる程度の日光があれば、基本的にビタミンDが不足することはない」と指摘する。紫外線を浴びることによる健康よりも、皮膚へのダメージの方が大きいという。
まず、日光を避けるに越したことはないという認識を持つことが重要のようだ。
▼日焼けするとしみやしわになるのはなぜ?
紫外線を浴びると、皮膚のすぐ下の表皮と呼ばれる部分にある細胞や組織にさまざまな変化が起こるという。

表皮には「メラノサイト」という細胞があり、メラノサイトがつくる「メラニン」が紫外線を吸収することで、体を紫外線から守っている。紫外線を吸収したメラニンは茶色くなり、これが日焼けとして皮膚に現れる。皮膚に日光が多く当たると、メラニンも多く生み出される。
メラニンは紫外線から体を守る重要な役割を持つが、しみの正体はこのメラニンだという。山﨑教授は「通常、メラニンは周囲の細胞分裂とともに45日程度かけて皮膚の上に押し上がり、あかとしてはがれ落ちる。ただ、浴びる紫外線の量が多いとメラニンの量が増えて表皮に滞り、しみとして残る」と話す。日焼けが1カ月程度で消えるのはメラニンが正常に働いている証拠のようだ。
また、表皮の下の真皮には肌の弾力を保つための組織がある。紫外線が真皮に到達すると、組織が変質して肌の弾力が保てなくなり、しわとなるという。このように、紫外線は体内にさまざまな影響を引き起こす。
▼紫外線で傷ついた細胞が増殖、がんに
山﨑教授は「紫外線はさらに重大な症状を引き起こすこともある」と警鐘を鳴らす。

表皮には「有棘(ゆうきょく)細胞」があり、細胞が無数に敷き詰められることで皮膚の物理的な強度を保ち、バリアの役割を果たす。紫外線が有棘細胞のDNAを傷つけると、がん細胞となることがあるという。傷つけられた細胞は通常、新陳代謝によって排除されるが、何らかの理由で排除されずにがん細胞が集まり続けると、皮膚がんの一種の日光角化症や有棘細胞がんにつながる。山﨑教授は「国内で確認される皮膚がんのうち、これら二つの日光由来のがんが32・2%を占める」と強調する。
日光角化症は日光が多く当たった箇所に数ミリから2センチほどの、周囲に赤みを帯びたかさぶた状の物ができる。この段階では危険性が低いが、より危険な有棘細胞がんに移行する可能性があるという。

有棘細胞がんはがん化した細胞が増えることで、顔や頭など体の一部にカリフラワーのような肉芽ができる。がん細胞が臓器などに転移することもある。10万人に2・5人の割合で発症するとされ、要因には熱傷や別の病気などもあるが、日光角化症から移行する事例が全体の23・9%を占めるという。
命の危険がある上、手術や薬物療法といった大がかりな処置が必要になる。山﨑教授は有棘細胞がん患者の8割が70歳以上である点に触れ「長年にわたる紫外線の蓄積である日突然発症する可能性があるため、若い頃からの日光対策が重要になる」と念を押した。

▼紫外線の影響を防ぐには
紫外線を避けるために有効な手段はあるのだろうか。山﨑教授は「一般的に昔から言われているような手段で防ぐしかない」と話す。日傘や帽子、長袖の衣服といったもので体に日光が当たる部分を減らすしかないという。
日焼け止め剤も有効で、一度塗ってから3時間後を目安に再度塗ることを勧める。紫外線からの防御機能を示す「SPF」の数字が書いてあるものは、20~30の数値で十分だという。一度塗ってそれっきりよりも、複数回に分けて塗る方が防止効果は高いようだ。

特に、日焼けすると肌が赤くなる人は、紫外線から体を守るメラニンが少ない傾向にあり、日焼けしにくい人よりも皮膚がんになる危険性が高いという。山﨑教授は「過敏になり過ぎる必要はないが、長時間日光に当たることが事前に分かっている場合は対策してほしい。若いうちから紫外線を蓄積しないことが大事だ」と呼びかけた。
日常生活を送る上で日光は避けられないもので、対策に限界はある。ただ、紫外線に対する自身の警戒レベルを今より少しでも上げることで、将来のリスク軽減につなげていきたい。