こっそり隠す茶箪笥(ちゃだんす)の中
義理だとは思わなかったチョコレート (松江)田中 堂太
0点の答案用紙二十枚 (松江)植田 延裕
言い訳を考えている通知表 (益田)石田 三章
初恋の人より届く年賀状 (出雲)萩 哲夫
投函の決心つかぬラブレター(埼玉・所沢)栗田 枝
通販で買った補聴器お試し中 (松江)佐々木滋子
婆ちゃんの歯形のついたお饅頭 (益田)吉川 洋子
おはぎかと思えば孫の泥だんご (松江)小谷由紀子
一日に一合だけのお楽しみ (飯南)塩田美代子
お婆ちゃん賞味期限が切れますよ (浜田)山崎 重子
へそくりは急須に入れて蓋をして (江津)井原 芳政
あやしげな名刺ひとまず没収し (出雲)野村たまえ
おしどりといえども腹の探り合い (江津)花田 美昭
円満の秘訣は何も知らぬふり (浜田)勝田 艶
記念日の妻を泣かせるサプライズ (出雲)はなやのおきな
早く誰か見つけてほしい診断書 (雲南)錦織 博子
越後屋と交わした悪の密約書 (益田)石川アキオ
かぐや姫月とつながる通信機 (雲南)わたくんの爺
どこからか目玉おやじが現れて (松江)宮本朝陽香
ご近所に知られちゃならぬコロナ菌 (山梨・笛吹)山梨葡萄郷
自撮りした傘寿記念のセミヌード (出雲)原 陽子
エンディングノートただいま執筆中 (浜田)青木 陽子
人生はいろんなことがありました (米子)板垣スエ子
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お久しぶりです。カレンダーの関係で、今回が2021年初のスペシャルとなりました。今年もどうぞよろしくお願いします。
さて「茶箪笥」。古い家具を集めてレトロな空間を演出したり、現代風のリビングにあえてアンティークを置いて、お部屋のアクセントにしたりというようなこと、最近よくありますよね。今回はそれを言葉でやってみよう…などという意図は全くなかったのですが、結果として、古い日本家具である「茶箪笥」と今の時代のあれこれがうまい具合にコラボして、レトロモダンともいえる面白い世界が広がりました。
葡萄郷さんの「コロナ菌」はまさかの発想でしたし、原陽子さんの「自撮りのセミヌード」もシビレました。傘寿記念にセミヌードを自撮りなんて笑うしかないですが、全くありえない話でもないところが令和ですよね。
それにしても「茶箪笥」って、引き戸や引き出しはあるけど鍵がなくてスキだらけ。こっそり何かを隠しても家族の誰かに見つかる可能性大いにあり。簡単に越えられる薄い壁を隔てて誰かとつながるこの感じ、連歌の世界と通ずるものがある気がします。何だか妙に心地いいのは、頑丈なロックやセキュリティーで守られ過ぎた現代を生きる私たちが、古き良き時代の遺産である茶箪笥や連歌のような世界を、どこかで求めているからなのかも知れませんね。 (詩人)