店内に並べられたレコードを選ぶ来店客=出雲市渡橋町、北村電機レコーズ
店内に並べられたレコードを選ぶ来店客=出雲市渡橋町、北村電機レコーズ

 レコードが今、密かなブームになっているという。カセットテープやCDより前に、音楽を楽しむ記録媒体だった時代を知る中高年の間では一部に根強い人気を維持していた。近年、かつて製造停止となったプレーヤーや関連機器の再販が始まり、幅広い世代でブームが再燃している。人々を引きつける、レコードの魅力とは何か、今年、出雲市にオープンしたレコード店を訪ね、聞いてみた。(Sデジ編集部・吉野仁士)

 

 ▼かつての主流は昭和中後期

 レコードは塩化ビニール素材で円盤形の媒体に、音の振動を記録したもの。大きいものでは直径30センチある。レコードは音の振動に合わせ、円に沿って溝状に削られている。レコードプレーヤーの専用の針で溝をなぞることで、記録された音を再生する仕組み。主に昭和中後期の1950~80年代を中心に、音楽を楽しむための媒体として普及した。

音楽をかけているレコードプレーヤー。レコード盤を回している最中に、機体左側の針をレコード上に置くと音楽が流れ始める

 90年代以降、CDが主流になってからは見かける機会が減ったが、愛好家の間で人気を保っていた。近年、最盛期を知らない若者からそのレトロ感が注目され始め、80年に大手レコード会社の日本コロムビアが販売し、CD台頭に伴って製造中止となったレコードプレーヤー「GPーN3R」が2021年、復刻版として再販された。

 他にもレコードクリーナーといった関連機器も相次いで再販され、レコードになじみがない世代でも手を出しやすくなった。

2021年に再販されたプレーヤー「GPーN3R」。奥行き40センチ足らずで、持ち運びにもそこまで苦労しない

 

 ▼収集欲を刺激するアナログ音源

 5月にオープンした北村電機レコード(出雲市渡橋町)の北村友和社長(46)は、約30年来のレコード愛好家。プレーヤー再販の知らせを受け、レコードの魅力を広めようと、古物商の許可を取得して開店した。店舗ではプレーヤーに加え、自身で収集したものや買い取ったレコードが並ぶ。ジャンルは歌謡曲、洋楽、ジャズ、ヒップホップといった計7千枚。一枚500~9800円で販売する。

 北村社長は子どもの頃から音楽、特にヒップホップが好きだった。レコード機器を使い、クラブなどで流す音楽を操るディスクジョッキー(DJ)の経験を通して、レコードに愛着を持った。「最近のスマートフォンで聞くデジタル音源と違い、個々の音楽を物として持っていられるのが良い。CDやカセットはやろうと思えば音源をコピーできるけど、レコードはほぼ一点物。収集したくなるし『このレコードを持っている』という点に満足する」とレコードの魅力を熱く話した。

自身も長らくDJを務める北村友和社長。DJ中のポーズ撮影に快く応じてくれた

 これまで、レコード専門店を回ったり、電気器具の修理のために訪れた先で捨てられそうだったレコードを譲り受けたりしてコレクションを増やした。所持している中で一番高価なものは8万円するという。

 「価値が高いのは、発売当時は注目されなかったのに有名DJが使用して注目されるようになったもの。生産枚数が少ないので、初版のものや、帯やポスターといった付属品があるとさらに高値になる」(北村社長)と教えてくれた。

高価な印象があるレコードだが、販売しているものは千円前後と求めやすいものが多い。価格だけで見れば現在のCDより安く、ジャケットのデザインも現代とは一味違った印象的なタッチだ

 また、レコードプレーヤーは多くが電池式のため、プレーヤーを持ち歩けば、屋外といった電気がない所でも音楽を楽しめる点も便利。人によっては、レコードに針を載せた時のプツプツという音や、録音時の臨場感をリアルに感じられる点を魅力に挙げる人もいるという。

 

 ▼若者がレコードにハマる理由は

 北村社長によると近年、CDが主流になった以降に生まれた楽曲を、あえてレコードとして販売する動きも全国的にあるという。レコードから媒体が進化してCD主流になったのに、CDからレコードに戻るという、逆転現象が起こっている。

 ただ、そのおかげでレコードに触れたことがなかった若者も関心を持ち始めている。レコードを買いに来店した出雲市の会社員、森岡翔さん(20)は「昭和のバンドが好きなので、当時の環境に近い音で聞きたくてレコードを集めている。ビートルズなど、名前だけ知っている昔のグループの曲を手軽に聞けるのも良い」と来店の理由を話した。

欲しいレコードを選ぶ若い来店客。北村社長も「オープン以降、中高年が多いと思いきや若い人がSNSを見て多く来てくれる」と喜ぶ

 森岡さんと一緒に来店した松江市の学生、山本智賀さん(23)も「レコードのジャケットは見た目がレトロな感じでかっこいいものが多い。自分が知らない年代の曲に出会えるのも楽しい」と話した。中高年が当時の懐かしさで集めるのに対し、生まれた頃からCDが主流だった若者は、異なる観点でレコードに魅力を見いだしたようだ。

 実際に北村電機レコードのオープン以降、幅広い年代の人が県内外から訪れるという。今後は買い取りを進め、さらに品ぞろえを強化したい考え。北村社長は「お客さんに好みのジャンルがあれば、こちらから似た曲をお薦めできる。とにかく気軽に店に訪れてもらい、レコードの魅力をいろんな人に広めていければうれしい」と笑った。

レコードをPRする北村社長。店内では常にレコードの音楽がBGMとして流れているので、実際に聴いて気に入った曲のレコードを買ってみるのもいいかもしれない

 

 もはや「レトロ」とは呼ぶのが不自然なほど、現代でも広まりつつあるレコード。昔聴いたことがあるという人も、一度も聴いたことがないという人も、ブームに合わせてレコードの音源に触れてみると、新たな音楽の世界が開けるかもしれない。北村電機レコードの営業時間は、平日は午前9時~午後7時半、土日は正午から午後7時半まで。年中無休。