来年1月に閉店する一畑百貨店は長年、地域の買い物客らに親しまれ、県都・松江のシンボルの一つでもあったが、人口減少による市場の縮小や新型コロナウイルス禍などにあらがえず、閉店を決めた。市民をはじめ、経済、行政関係者ら多くの人が惜しみ、地域経済への影響を案じた。
閉店を決めた一畑百貨店は水面下で、来年夏のリニューアルオープンを目指していた。しかし、新型コロナウイルス禍などで計画したテナントの誘致が不調に終わり、黒字化のめどが立たず幕引きを決めた。
半世紀以上の歴史を重ねてきた島根県内唯一の百貨店。経営に陰りが見え始めたのは、直線距離で約450メートル離れた大型店が増床オープンし、出雲市内に売り場面積約3万6千平方メートルの県内最大級の店舗が開店した2008年ごろ。競合店の台頭に、人口減少に伴うマーケットの縮小が重なり経営を圧迫した。
出雲大社の平成の大遷宮で76億円を売り上げた13年を最後に、14年以降は9期連続で赤字に陥った。
ここ数年はコロナの打撃を受けたアパレル業界で、老舗メーカーの経営破綻や大手ブランドの店舗網縮小が続出。一畑でも大手のオンワード系列など婦人、紳士服の計8ブランドが短期間に撤退し、稼ぎ頭の衣料品が低迷した。
反転攻勢のリニューアルオープンに向け、22年から準備に着手。店舗の新陳代謝を図るため、不採算の15店を閉じ、若い世代も取り込める都会地のテナント誘致などを急いだ。衣類をはじめ、飲食、電気小売など120社に働きかけたが、商圏の小ささやコロナによる先行き不透明感を理由に難航。結局、1店の誘致も実っていない。
「新たなテナントが入らない中で、黒字化は難しい」。22年度決算がまとまった4月、経営陣は閉店に向けた協議を本格的に始め、5月19日にあった親会社一畑電気鉄道の取締役会で決議した。
百貨店業界は全国的に苦境にある。日本百貨店協会によると、店舗数はピーク時1999年の311店から4割減の181店。3店が立地する鳥取県でも、2店が運営会社の事業譲渡や地元企業の資本投入で生き残りを図る。
一畑百貨店を取り巻く環境は58年の開店当初から大きく変わった。地域の高齢化につれ、中心顧客の年齢は60~70代に上昇。経営幹部は「15年前に調査した時は55歳だった。販売員と一緒に年を取った」とつぶやいた。商環境が大きく変化していく中で、経営を時代に適合させるのは容易ではなかった。(今井菜月、岩垣梨花)