アルバム「TOTO4~聖なる剣」
アルバム「TOTO4~聖なる剣」

 1980年代はハードロック/ヘビーメタル(HR/HM)とアダルト・オリエンテッド・ロック(AOR)という対照的なロックが同時に盛り上がった。HR/HMが「悪ガキのロック」とすればAORは「洗練された大人のロック」。AORは廃れたが、代表格のバンド、TOTOは今聴いても色あせていない。

 一番好きな曲はヒット作「アフリカ」(1982年のアルバム「TOTO4~聖なる剣」に収録)。ドラムのループに続き、ブラス&マリンバ風のシンセサイザーのメロディーが広がってアフリカの大地を想像させ、美しいコーラスも相まって癒やされる。「アフリカに恵みの雨が降りますように」という趣旨の歌詞も味わい深い。アフリカの飢餓救済に関心が高まり、米人気歌手たちのチャリティーソング「ウィー・アー・ザ・ワールド」(85年。ウォウウォウウォウ…とシンディ・ローパーが割り込んでくるところが最高)が生まれた世相を感じさせる。

アルバム「ザ・セブンス・ワン~第7の剣」

 同じく「聖なる剣」収録の「ロザーナ」はリズミカルな歌い方がいい。シンセやギターのソロも聴きどころ。ほかに好きな曲は「99」(79年のアルバム「ハイドラ」に収録)、「ストップ・ラヴィング・ユー」(88年の「ザ・セブンス・ワン~第7の剣」に収録)といったところ。

 実はTOTOを聴き始めたのは大学時代の90年代前半。SF研究会というサークルで出会った友人の影響だ。自分と反対に、スポーツマンで、おしゃれで、爽やかな人物で、なぜこのサークルに来たのか不思議だが、妙にウマが合った。友人が絶賛するTOTOは、AC/DCやガンズ・アンド・ローゼズといったHR/HMに慣れていた耳には軟弱にも思えたが、きれいで親しみやすいメロディーとコーラスが気に入った。

 高度な演奏技術がさりげなく忍ばせてあることは後に知った。例えば「ロザーナ」でドラム奏者ジェフ・ポーカロが見せるハーフタイム・シャッフル。ポーカロと同じくスティーリー・ダンのアルバムに参加したバーナード・パーディーや、レッド・ツェッペリンのジョン・ボーナムの演奏に触発された超絶技巧だという。ジャズのマイルス・デイビスと共演したり、ブルース/サイケデリックロックのクリームの曲をカバーしたりと引き出しが多彩なことも後に知った。

 人はいろんな顔を秘め、一見しただけでは分からない。この友人とともにTOTOは記憶に刻まれる。(志)