ブランコからブランコへ空中を自由自在に飛ぶのは南米チリ出身のチャトさん(48)。ヒョウのようにしなやかにブランコに飛び移り、白鳥のように空中で力強く舞う。
サーカス一家の出身で、7歳で初めて空中ブランコに挑戦した。「当時も今もブランコに飛び移る時は怖いけれど、それ以上にたまらなく楽しい」と話す。
新型コロナウイルス禍の直前、妻の故郷であるウクライナ・ハリコフに帰った。昨年2月、ロシアのウクライナ侵攻が始まり、爆弾の音や「逃げて」と叫ぶ住民の声を自宅で聞き「明日生きていられるか毎日疑問だった」と悲しい表情を浮かべて振り返る。
昨年12月、妻と4歳の子とともに来日し、ポップサーカスに戻った。「サーカスができることは当たり前じゃない。その価値に気づいた」。表情に笑顔が戻り、他の団員たちも「サーカスに戻ってからはまるで水を得た魚のよう」と生き生きと演技する姿に、逆に元気をもらっている。
「サーカスでは嫌なことも全部忘れて楽しんでほしい」とチャトさん。平和の尊さをかみしめながら、松江の地で舞い、客席に笑顔の花を咲かせる。(堀尾珠里花)