島根原発2号機の再稼働反対を訴える市民=松江市殿町、23日午後
島根原発2号機の再稼働反対を訴える市民=松江市殿町、23日午後
島根原発2号機の再稼働反対を訴える市民=松江市殿町、23日午後

 中国電力島根原発2号機(松江市鹿島町片句)が23日、再稼働の前提となる原子力規制委員会の審査に事実上合格した。原発の稼働による電気料金の値下げを期待する地元の産業界は歓迎する一方、事故時のリスクと隣り合わせの住民は複雑な感情を抱く。  (高見維吹)

 島根原発が立地する片句地区。全世帯(約90戸)が加入する片句原子力発電所対策協議会の中村保会長(67)は事実上の審査合格の一報を聞き「正直、再稼働には不安が残る」とつぶやいた。

 脳裏に浮かぶのは最大で約16万人が避難を余儀なくされた2011年3月の東京電力福島第1原発事故の光景。島根原発で重大事故が起きたときに住民用のバスは本当に来るのか、必要な避難道路は崩れずに通れるのか…。事故から10年が過ぎた今も疑念は晴れない。

 ただ、原発に置き換わる有力な電源が見いだせないのも事実で「本当はいらないんだけど、電力の安定供給のためにはまだ頼らないといけないかもしれない」と揺れる胸中を明かした。

 政府はエネルギー基本計画で原発を「ベースロード電源」と位置付け、火力発電や再生可能エネルギーより発電コストが抑えられると説明する。島根県中小企業団体中央会の杉谷雅祥会長(82)は、関西電力や九州電力が原発の再稼働後に電気料金を引き下げたことに触れ「新型コロナウイルスの影響で停滞気味の地域経済にも力がつくはずだ」と強調。島根県経営者協会の久保田一朗会長(69)も「7年半の審査を通してかなりの安全対策がなされてきたのだろう」と早期の再稼働を望む。

 一方、広島高裁松江支部で係争中の島根2号機運転差し止め訴訟の原告団長を務める芦原康江さん(68)は「審査の過程で、安全性は二の次でコスト優先の考えが一貫しているように映った」と中電の姿勢を非難する。

 自身は島根2号機の建設時から反対運動を続けており、避難計画の不備を理由に日本原子力発電東海第2原発(茨城県)の運転差し止めを命じた今年3月の水戸地裁判決を引き合いに、再稼働に事前了解しないよう全国60団体・個人が名を連ねた要望書を28日に島根県に提出する考えだ。

 松江市殿町の県庁前では23日昼、共産党県委員会が企画した街頭演説に約20人の市民が参加し、再稼働反対を訴えた。

<解説> 「地元同意」難航は必至
 島根原発2号機が原子力規制委員会の審査に事実上合格したことで、今後の焦点は地元の再稼働議論に移る。中国電力は9月以降の正式合格を待って「地元同意」を得る手続きに入るが、解決すべき課題が多く残されており、難航するのは必至だ。

 東京電力福島第1原発事故を教訓にした原発の新規制基準に基づく審査は、7年半の長期に及んだ。東電柏崎刈羽原発(新潟県)の審査が優先されたことや、敷地近くに存在する「宍道断層」の長さの議論に多くの時間を費やしたことが一因だが、中電の審査に臨む姿勢や原発事業者としての資質がたびたび問われたことも影響した。

 審査会合で規制委や事務方の原子力規制庁から説明不足や根拠の甘さを指摘される場面は珍しくなく、原発構内での不祥事も絶えなかった。

 23日も、中電がテロ対策施設の関連文書を無断で廃棄していたことが規制委の定例会合で報告され、島根2号機の審査書案の審議を続けるかどうか、委員5人の意見が分かれる一幕があった。

 審査書案の了承によって規制委の〝お墨付き〟は得たが、原発や中電に対する住民の不安、不信感が拭えたわけではない。

 島根原発の30キロ圏内には約46万人が暮らし、自力避難が難しい入院患者や寝たきりの高齢者といった「要支援者」は全国最多の約5万2千人に上る。避難計画の不備を理由に運転を認めない判決が出た日本原子力発電東海第2原発(茨城県)の住民訴訟のように、避難計画の実効性を巡る議論は長引くことが予想される。

 2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする目標を掲げる政府と、それを追い風にする中電は再稼働に前のめりだが、原発の安全性は本来切り離して議論する問題だ。今こそ、事故時のリスクと隣り合わせで暮らす住民が自分ごととして原発を直視する時である。

  (報道部・平田智士)

 

 

周辺自治体 ゼロ回答に不満

 中国電力島根2号機の再稼働に必要となる「地元同意」の手続きは、原発30キロ圏内の2県6市が対象となっている。このうち、周辺自治体の出雲、安来、雲南、境港、米子の5市と鳥取県は、再稼働の可否を判断する「事前了解」の権限を持っていない。かねて立地自治並みの安全協定への改定を求めるが、中電からは「ゼロ回答」の状況が続く。

 原子力防災対策の重点地域は福島第1原発事故を受け、10キロ圏から30キロ圏に広がった。立地自治体の松江市と島根県に加え、周辺自治体にも事故時の避難計画の策定が義務付けられたが、中電と結ぶ安全協定は立地自治体と差異が生じたままだ。

 島根側の3市は過去4度にわたって中電に協定内容の改定を申し入れたが回答はなく、同日の記者会見で出雲市の飯塚俊之市長は「協定はリスクを負う自治体の発言権を担保するものであるべきだ」と指摘。雲南市の石飛厚志市長も「ボールは中電にある」と訴えた。

 同様に、立地自治体と同等の協定に改めるよう中電に強く求めている鳥取県の平井伸治知事は「返答がなければ再稼働の同意判断に影響する。中電がどういう考え方を示すか注目したい」とくぎを刺した。

 一方、松江市の上定昭仁市長は立地自治体と周辺自治体の権限差について「不合理、不自然とは思わない」と強調。島根県の丸山達也知事はそれぞれの主張を踏まえ「両方とも理屈がある。中立を保ちたい」と述べ、あくまで中電と当事者間での解決を目指すよう促した。  (取材班)