「もはや災害だ」。熱中症による死者は、2018年から毎年千人を超え、識者らがそう警告するほど深刻な状況だ。新型コロナウイルス禍での2度目の夏。長引く自粛生活で体力が落ち、孤立しがちな高齢者は、例年にも増して注意が必要になる。周囲とつながりつつ身を守る時だ。
「これほど自粛が長期化すると、精神的な疲れも重なって体力は衰えがち。特に高齢者は熱中症に弱くなっているかもしれません」。国立長寿医療研究センター(愛知県大府市)の北川雄一感染管理室長は懸念する。
北川室長らは感染症対策との両立を主眼に、高齢者向けのハンドブックを作成した。「自分で思っている以上に暑さへの耐性が落ちている。特にこの夏はそのギャップも意識してほしい」
追い打ちをかけるのが梅雨明け後の猛暑。今年は西日本などで平年より早く梅雨入り。大雨や曇天が続いた後の猛暑で、気温の変化に体が追い付けないとリスクが高まる。「ただ熱中症対策は、長年の積み重ねもあり個々人がやるべきことは分かっている。いかに実行し習慣にするかです」
ハンドブックなどによれば、こまめな水分補給が必須。高齢者は喉の渇きを感じる前に、補うのがポイントだ。熱中症で救急搬送されたお年寄りの多くは、屋内で発症している。年を取ると暑さを感じにくく、室内の気温や湿度が高くなりがち。温湿度計で確認し、早めのエアコンの使用を心掛けよう。毎日軽く運動し、汗をかきやすい体にしておくといい。
心身の状態や気温とともに意識したいのが、コロナ禍で深刻化した孤立の予防だ。長年、熱中症を巡る膨大なデータを分析し、要因などを読み解いてきた東京都立大の藤部文昭特任教授(気候学)は「背景には気象条件だけでなく、高齢者の孤立など社会的な要因も大きい」と指摘する。
お年寄りへのワクチン接種は進みつつあるが、公共施設は利用の制限があるままだったり、地域コミュニティーは往来が減っていたりして「高齢者を見守る社会的な機能が、弱まっている恐れもある」と藤部教授。
近年、年間の死者が千人を超える厳しい暑さは珍しくない。18年の猛暑では、気象庁が「命の危険がある。災害と認識している」と強く警戒を呼び掛けた。藤部教授は「孤立した人ほど、熱中症になっても周りに気付かれないまま、重症化する懸念もある。周囲の人は、従来の暑さに関する常識や経験則にとらわれず、積極的に声を掛け合った方がいい」という。














