戦後80年の今夏、作家の大田洋子(1903~63年)による原爆文学2作を収録する「屍の街・夕凪の街と人と」(岩波文庫)が出版された。巻末のかなり長い「解説」を書いたのは、若き日に大田の評伝「草饐(くさずえ)」(1971年)を著したノンフィクション作家の江刺昭子(1942年~)、大田文学研究の第一人者だ。江刺や、広島で活動を続けてきた市民団体「広島文学資料保全の会」の存在がなければ、この不遇の作家の手による原爆文学は、歴史の闇に埋もれていたかもしれないとさえ思う。

 「屍の街」など大田の作品は絶版状態が長く、いつの間にか知名度...