母の手紙が教えた本当の居場所、また戻ってきたい場所に私もなりたい
出雲平野に広がるのどかな田園風景。遠くに北山を望む一軒家の庭先では、炭火を起こし、バーベキューの真っ最中です。子どもたちが駆け回る中、野井結さん(37)が振り返ります。

「地元が落ち着く。やっぱりここが好きなんです」。傍らにいる母の嘉本昭子さん(70)がうなずきます。「帰ってきてくれてうれしかった。やっぱり、そばにいてくれると安心しますね」。
夢を追い県外へ

結さんは中学生の時に参列した親戚の結婚式の華やかな雰囲気に魅了され、ブライダル業界を目指すことを決めました。高校卒業後、大阪のブライダル専門学校に進学。しかし、父の体調不良により、1年での退学を余儀なくされました。
その後、地元に帰ってアルバイトをしながら、今度は「海外で働いてみたい!」と再び夢を追い始めます。そして、ワーキングホリデーでニュージーランドへ旅立ちました。ニュージーランドでは、語学学校に通いながら日本食レストランで働きました。
ただ、どこか違和感がありました。「私はどこで暮らしたいんだろう」。大阪で暮らしても、海外で暮らしても、思い出すのは故郷のこと。そして、その故郷の象徴が母の昭子さんでした。
結さんは今でも島根を離れていたときに届いた、昭子さんからの手紙を大切にとっています。「大阪のときの手紙には『大阪人らしく都会の人になってください』って書いてあったり(笑)。でも、『夏休みに入るけど帰れますか』『帰れるようにバイトの店長にお願いしてください』とも書いてあって…。島根を出るときには応援してくれて、それでもずっと心配してくれて、母は包み込んでくれるような存在です」
ニュージーランドから帰郷後、結さんは偶然訪れたカフェで、かつての知人と再会します。彼女がブライダル業界を志していたことを覚えていたその人物から、地元のブライダル会社を紹介されました。縁結びで知られる出雲大社の近くでの結婚式に関わる仕事は、まさに思い描いていた夢の延長線上にありました。

現在は、夫と3人の子ども、義母とともに出雲市内で暮らしています。夫は大工で、自宅の庭には手作りのブランコやバーベキュー設備があり、家族や友人が集う場となっています。近くに住む昭子さんもたびたび訪れます。

帰って良かった
「子どもたちが自然の中でのびのび育っているのを見ると、ここで暮らしていて本当に良かったと思います」。そして結さんは、子どもたちにも、どんどん挑戦して、広い世界を見てほしいと願います。「もし県外や海外に出て行っても、また戻ってきたくなるような場所でありたいですね」。結さんにとって、故郷や昭子さんがそうであったように。
野井さんの大切な人

娘には自由に好きなことをしてほしいって思っていました。でもやっぱり心配でしたよ。ニュージーランドに行ったときは現地で大きな地震もあったし。手紙やインスタントのみそ汁を送って、近況を確かめていました。あまり言葉に出したりはしないけど、帰りたくなったら気兼ねなく帰ってほしいって。
近くにいるとやっぱり安心します。都会も経験して、海外も行って、それでもやっぱり「島根がいい」って思ってくれた。それが一番うれしいです。

PROFILE
野井 結さん/大阪府➤松江市
1987年出雲市生まれ。高校卒業後、大阪観光専門学校へ進学。2007年にUターン。2011年に1年間ニュージーランドで暮らし、再び地元に戻った。結婚し、長女、次女、長男の三児の母。出雲市内のブライダル会社に勤務し、「華やかな結婚式のお手伝いをしたい」という中学の頃からの夢をかなえた。
(写真:七咲友梨)
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