中海・宍道湖・大山圏域の未来を担う人材の育成を目的にしたセミナー「山陰まんなか未来創造塾」が2025年3月3日、同実行委員会の主催により、松江市母衣町の松江商工会議所で開催されました。岐阜県飛騨市で里山や空き家など地域資源を生かしたツーリズムを展開する(株)美ら地球(岐阜県飛騨市)CEOの山田拓氏が、地方部でのインバウンドツーリズムの可能性の大きさを説いた。

以下の記事は、2025年3月3日(月)に開催された、令和6年度山陰まんなか未来創造塾の内容を採録したものです。

 10年に飛騨エリアで里山エクスペリエンス(体験)のサービスを始めた。飛騨エリアは岐阜県の最北端にあり、93%が森林。水も豊富で、酒蔵などもあって文化も豊かだ。当初から行う飛騨高山サイクリングは、参加者が自転車に乗り、ガイドの案内で飛騨の日常や暮らしに触れる内容。2時間半~3時間半のサイクリングは、3分の2の時間は自転車に乗っていない。田植えから稲刈りまで多くの時間を要するなど、住民の暮らしをじっくり紹介するスローなツアーだ。

海外の旅行者から高評価を得ているサイクリングツアー ©SATOYAMA EXPERIENCE 

 地域にとって当たり前のことだが、外国人の興味関心は高い。開始から10年以上が経過する中、参加者はコロナ禍を除いて右肩上がりで23年に過去最多を更新。ウオーキングや田舎料理教室など、サービスを増やして喜ばれている。欧米豪のゲストが9割を占め、五つ星の評価しかない。過疎高齢化で古民家の維持管理に苦労している住民のために、お助けボランティアを募ったら、それだけのためにわざわざ海外から来る人もいる。それだけ、日本の田舎には魅力がある。世界中を旅してきた経験から、世界各国でやっているツーリズムの日本版、地方版を作っているだけで、インバウンドツーリズムはそんなに難しいことではない。
 サービス開始10年目の節目の20年には、地域課題をビジネスで解決できないかと考え、分散型ホテルの展開を始めた。まちの空き家を宿、温泉を風呂、飲食店を食堂にするなど、まち全体をホテルとして考えて観光客を受け入れる。施設の新築、改修は技術継承の目的を含めて地元の大工が担い、建築資材や食材は地元産を使うなど、地域資源を活用。多額の整備費は掛ったが、外国人からもらったお金を、ローン返済で地域に回すことで、経済貢献につながっている。持続可能な観光ツーリズムに向けては、地域に恩恵がなければ意味がない。 

2020年に開業したSATOYAMA STAY ©SATOYAMA EXPERIENCE 

 外国人の高い満足度を維持するために最も重要なことは、お喜びいただけないと思うゲストにはお越しいただかないようにする。要はターゲティングだ。観光関係者でこの考えが圧倒的に弱いと感じる。自社サイトは日本語と英語の紹介しかない。欧米豪は旅慣れた人が多く、母国語より英語ができる。言語を増やすこともできるが、人材が限られる中でスタッフの負担も増え、サービスが落ちてしまう。広くではなく、あえて絞る。その勇気が大事だ。すでにいっぱい外国人が来ているんだから、問題ない。

 日本は現在、インバウンド市場が大きく伸びている。この潮流はしばらく変わらない。ゴールデンルートは人だらけ。欧米豪の外国人は1回の旅行で約2週間、滞在する。行程の中で、いかに山陰エリアに呼び込むかだ。食文化の体験、サイクリング、古民家滞在など単発のコンテンツではなく、衣食住遊をそろえたパッケージでの売り出しが欠かせない。
 3~5日の滞在プログラムで、滞在価値を創ることが必要になる。他県の農山漁村と連携して7~10日間のプログラムを用意するのもいい。価格はコストベースではなく、価値ベースで設定しなければならない。彼らの国ではビール1杯3千円を平気で払うので、日本人と感覚が違う。外国人に価値を感じてもらえれば、金額は関係ない。 持続可能なツーリズムに向けては、建設業が異業種参入するケースも増えている。
 人口減少が進み、国内市場が縮小する中、海外に目を向けている。何度も言うが、インバウンド市場は大きく伸びている。今後も成長が見込める市場になぜ挑戦しないのか。インバウンドツーリズムは地方部を守り継承することに大きく寄与する可能性がある。そのためには地域の関係者がその可能性を信じて今日から動くしかない。

山陰の魅力を再発見した 
   講師の山田氏と談笑する参加者 

 
講演後にはグループワークがあり、参加者は4班に分かれて台湾人向けの山陰観光のモデルコースを設定。山陰のおすすめ観光スポットや食などの魅力を紹介し合いながら組み立て、「しじみ漁を体験した後に漁師とスナックでカラオケ」など、個性豊かなコンテンツを入れたコースを発表した。

    交流を深めた 
山田 拓(やまだ・たく) 
外資系コンサルティング会社を経て、2年間の世界ツーリズム研究の旅を経験後、飛騨古川に移住。「SATOYAMA EXPERIENCE」を通じて日本の原風景の魅力を世界に発信し、令和2年からは空き家を活用した分散型ホテル「SATOYAMA STAY」を展開。内閣官房地域活性化伝道師や総務省地域力創造アドバイザーを務め、ジャパン・ツーリズムアワードなど多数の受賞歴を持ちます。著書「外国人が熱狂するクールな田舎の作り方」(新潮新書)の著者でもあり、地域文化と観光の共生による新しい価値創造に挑戦し続けている。
2024年度のセミナーはこちらから
カフェやレストラン、ホテルを全国で展開し、2023年5月には出雲市多伎町の海岸沿いに複合施設「WINDY FARM ATMOSPHERE(ウィンディ―・ファーム・アトモスフィア)」を開業した (株)バルニバービ(本社・東京都港区海岸)の佐藤裕久会長が講演し、地方ビジネスの可能性の大きさについて講演しました。

山陰まんなか未来創造塾 毎年、中海・宍道湖・大山圏域の企業・団体・自治体の中堅社員・職員等を対象にした合同セミナーを開催しています。多彩な分野から講師を招き、受講生がさまざまな経験・理論を学ぶことで視野を広げ、企画力・創造力を磨いてもらうとともに、相互の連携意識の醸成、人的交流の推進を図っています。