興奮して夜も寝られないほどの素晴らしい演奏を、どれほど聴いただろうか。鳥取県琴浦町の前田洋子さん(72)は、6年ぶりに訪れたホールで数々の感動の記憶に浸った。
446席の音楽ホールを核に1985年10月、同町釛に開館した旧カウベルホール。空調設備の故障を機に2019年夏から使えなくなった町有施設は、出演者も驚かせる音響で名高かった。世界的ギタリストの故ナルシソ・イエペスは「最上の思い出」と語り、歌手のさとう宗幸さんはマイクを下げて肉声を響かせた。
有効活用に向けて民間の提案を募るトライアル事業に地元NPO法人が名乗りを上げ、住民有志と知恵を絞った。「カウベルタウン」を新愛称とし、この夏からさまざまな利活用策でにぎわいをつくった。
音楽ホールはつり天井の改修などが必要で今も使えないが、未利用施設として町の普通財産に「格下げ」されたことで自由度を増したお試し事業により、事務室や会議室はカフェやセミナールームに。ロビーで野菜市や古本交換、ギャラリー、中庭で野外イベントもあった。
合唱団代表を務める前田さんにとってカウベルといえば音楽ホールだったが「こんな使い方もあったのか」と驚いた。施設の在り方は町が利用実績などを踏まえ、年内に判断するが、かつての芸術文化拠点の可能性や新たな価値を形にした住民の動きや思いは「お試し」で終わらせたくない。(吉)













