
中海・宍道湖・大山圏域の未来を担う人材の育成を目的にしたセミナー「山陰まんなか未来創造塾」が、同実行委員会の主催により、松江市母衣町の島根県商工会館で開講しました。
第1回はカフェやレストラン、ホテルを全国で展開し、2023年5月には出雲市多伎町の海岸沿いに複合施設「WINDY FARM ATMOSPHERE(ウィンディ―・ファーム・アトモスフィア)」を開業した(株)バルニバービ(本社・東京都港区海岸)の佐藤裕久会長が講演し、地方ビジネスの可能性の大きさを説きました。
島根、鳥取は全国で人口が少ないトップツーの県です(笑)。人口減少や高齢化、少子化などが不安な要素に聞こえていることでしょう。しかし、私はそうは思っていません。僕たちの考え方からすると、むしろラッキーだと思っています。
地方は退屈(くつ)、卑屈(くつ)、窮屈(くつ)と捉えられがちですが、この三つは全て覆(くつ・がえ)すことができます。「スタバはないけどスナバはある」と鳥取県の平井伸治知事は言いましたが、東京にいる僕らはスタバよりもそこにしかないスナバカフェに行きたいのです。
地方には実は都会にないものがいっぱいあります。残念ながらその魅力は、住む人には見つけにくく、当たり前だと思う人は見過ごしてしまいます。

われわれが取り組む飲食業は、住んでいる人に見つけにくく見過ごしてしまいがちな地方の魅力に再び光を当てる「地方創再生」の一環と考えています。
当社は、淡路島北西海岸(兵庫県)で4万5千平方メートルの敷地にレストランやサウナ、バーベキューやピクニックを楽しめるガーデンなど17施設を運営し、年間売り上げ10億円の事業に育てました。施設を整備するのに合わせ、道路脇にもともとなかった歩道を整備したり花を植えたりして、まちづくりも進めています。

それまで淡路島で夜に歩く人はいませんでした。店舗を作る際は社内の幹部クラスから「車でしか行けず、バス停もないところで夜の営業ができるのか」といった指摘がありましたが、僕は宿泊もでき、どうしても行きたくなる場所が作れればいいとの考えでした。

例えば、海に沈む美しい夕日。地方に住んでいる皆さんにとっては当たり前かもしれませんが、都会からわざわざ足を運んでみる価値があります。淡路島なら、新鮮な玉ねぎを使ったスープ、野菜サラダなど、都会の人が魅力に感じるものを生かす努力を進めました。
すると、地権者からは「おまえたちに任せると町がよくなる」と受け止められるようになり、売ってやる、貸してやる、使っていいよと歓迎されるようになりました。
観光ではなく、住みたくなる町に進化させていきたいと思っています。実際、淡路島で勤務している社員の中には、島内で家を探し、家族を呼ぼうとする人も出てきています。
淡路島の次に選んだのが、出雲市の多伎、湖陵です。人口減少が進む地域ですが、日本海に沈む夕日に魅了されました。海岸側一帯の用地にレストランとホテル、飲食施設「崖の中のホテル」をうたった複合施設「WINDY FARM ATMOSPHERE(ウィンディー・ファーム・アトモスフィア)」を開業しました。日本海と夕日の絶景を望める施設に、県内外から大勢の利用者が集まってきています。

わざわざ足を運ぶ価値のあるということに気付いてもらい、行きたくなる、働きたくなる、住みたくなるコミュニティーがある町にすること。これが事業を通して実現させたい「地方創再生」です。
淡路島ではイベントを開催し、地元の方々と社員が交流しています。施設の周辺に新しい店ができ、新しい息吹が生まれ始めています。コミュニティーが発生し、そこで生業が成り立つことが大切です。それを僕は島根でもやりたいと思っています。僕は日本の地方をあきらめてませんし、地方にこそ未来があると本気で思っています。ともに頑張りましょう。

佐藤裕久(さとう・ひろひさ) 京都市上京区生まれ。1991年、バルニバービを設立し、現在東京・大阪をはじめ全国各地にレストランやカフェ、スイーツショップを展開。近年は食を切り口にした地方創再生に取り組んでいる。現同社会長CEO兼CCO。
一畑電車株式会社に訪問し、野津昌巳営業課長が、事業内容の紹介や独自の取組みについて講演。その後、社内見学、体験運転を実施した。
三光株式会社に訪問し、三輪昌輝代表取締役社長が、業界や事業内容の紹介、独自の取組みについて講演。その後、産業廃棄物処理施設見学・工場廃熱を利用した陸相養殖見学を実施した。
山陰まんなか未来創造塾 毎年、中海・宍道湖・大山圏域の企業・団体・自治体の中堅社員・職員等を対象にした合同セミナーを開催しています。多彩な分野から講師を招き、受講生がさまざまな経験・理論を学ぶことで視野を広げ、企画力・創造力を磨いてもらうとともに、相互の連携意識の醸成、人的交流の推進を図っています。