『たりないふたり2025』(C)日本テレビ
『たりないふたり2025』(C)日本テレビ

 南海キャンディーズ・山里亮太、オードリー・若林正恭による「たりないふたり」が、このほど4年ぶりに復活を果たし、日本テレビ系で『たりないふたり2025』として、12日・19日の2週連続で放送された。ドラマで、山里を演じたSixTONESの森本慎太郎、若林を演じたKing & Princeの高橋海人(※高=はしごだか)も客席でこっそり鑑賞する中、2人が見せた圧巻の1時間半におよぶ漫才。Huluで配信されている特別版の内容にも踏み込みながら、2009年の誕生から16年にわたって歩んできた「たりないふたり」の軌跡がつまった復活の舞台を、野暮を承知で“言語化”していきたい。

【写真】山里亮太&若林正恭「たりないふたり」を笑顔で見守る高橋海人&森本慎太郎

■朝の顔になった山里、東京ドームを揺らした若林 それでも「たりない」

 まずは、『たりないふたり』の基本情報について。2009年にお笑いライブ『潜在異色』で生まれ、2012年『たりないふたり』、14年『もっとたりないふたり』、19年『さよならたりないふたり』、20年『たりないふたり2020~春夏秋冬~』と題した日本テレビ深夜番組やライブを通じて漫才を披露してきた。21年5月31日『明日のたりないふたり』をもって、12年におよぶコンビ活動を終了=解散した。

 2023年にはKing & Princeの高橋海人(※高=はしごだか)が若林正恭、SixTONESの森本慎太郎が山里を演じる日本テレビ系連続ドラマ『だが、情熱はある』も放送されるなど、解散後も話題を振りまいてきた。解散から4年以上が経過し、山里は芸人活動も精力的に行う一方、23年からは日本テレビ系『DayDay.』(前9:00)で“朝の顔”になった。若林も、24年に『オードリーのオールナイトニッポンin東京ドーム』を行い、5万3000人のリスナーが集い、ライブビューイングと配信を含めると合計15万6707人を熱狂させた。

 ともに新たなステージへと突入し、はたから見れば「たりてる」と思われがちな2人。なぜ、今回4年半ぶりに復活を果たしたのか。たりないふたりの“仕掛け人”安島隆氏は「今の山里さん、若林さんを見ていて、お互いがお互いを欲している。結成した頃のたりないふたりのようだと、勝手に感じていました。今年3月に『オードリーのオールナイトニッポン』を聴いていたら、若林さんが『たりないふたり、やりたいけどな…。山ちゃんと、明日にでもやりたい』とおっしゃっていて。そこで、山里さんにも確認をしてみると、山里さんも今すぐにでも若林さんと漫才をやりたいと…」と告白。

 続けて「また、山里さんは、若林さんとプライベートでの交流はなく、番組での共演もなかったのですが(解散後)若林さんから山里さんのところに、漫才の設定についてLINEが送られていたことがわかったんです。計4回。山里さんも、『あれ?若ちゃん漫才したいのかなあ』と思っていたそう。今のお2人の気持ちを優先したい、僕もお2人がもう一度漫才している姿を見たい。一度解散したという葛藤はありましたが、今のお2人の気持ちがぶつかる『たりないふたり』の漫才を、ファンの皆さんにも喜んでもらえるのではないかと思い、急遽調整に入りました」と打ち明けた。

■水卜アナの愛にあふれた影ナレ 原点を思い返す圧巻の漫才

 そして迎えた復活の日。Hulu特別版では、久しぶりに顔を合わせた2人が打ち合わせを行う様子、本番直前の2人の姿などが収められている。直前の心境を「草野球」に例えて笑顔を見せる若林に対して、山里は今回の観客についてXで検索をかけて“若林派”がいたと熱弁する一方、緊張感ものぞかせる姿はなんとも印象的だ。会場に観客が入り、いよいよ本番を目前に控えたところで、たりないふたりの大ファンで“伝道師”でもある水卜麻美アナによる愛にあふれた影ナレが読み上げられた。

 影ナレの効果もあって、視聴者も観客と同じ気持ちになって、ライブに参加している感覚になる中、オープニングVTRが流れる。「ぼくはゴッホじゃやなんだ」という歌詞が出てくる、ドレスコーズ「ゴッホ」に乗せて、山里は楽屋、若林は自身の作業部屋で思考をめぐらせる様子が映し出された。

 オープニングのVTR映像後、山里と若林がエレベーターから登場。これはドラマ『だが、情熱はある』最終回「燃え上がるものありますか?」ラストシーンへのオマージュと見られる。『DayDay.』『午前0時の森』のポスターが貼られたエレベーターに乗った山里(森本)と若林(高橋)が「お疲れ」と言い合い、エレベーターが閉まったところでドラマが終了していたが、これを踏まえて、今回は『DayDay.』『ZIP!』のポスターが貼られたエレベーターから、山里と若林が登場した。

 安島氏が、若林の作業部屋にあった「センターマイク」を持ち出して設置するという粋な演出も挟みつつ、『明日のたりないふたり』直後に行った“夜の公園”をモチーフにしたセットに2人が姿を現した。『だが、情熱はある』で2人を演じた森本と高橋も、こっそり客席から見守る中、久しぶりの「たりないふたり」による漫才が幕を開けた。

 冒頭で、若林が「今回の漫才の目標は、ただひとつ。TVerを回したい」と宣言していたが、ここでの漫才が放送されることを想定していないのではと思うほど、ノンストップでライブ感あふれる圧巻のかけあいを行っていく2人。この4年半に起きたことを踏まえて「たりているのでは?」という声やSNSを取り巻く環境もネタに取り入れ、すべてを笑いに変えていく。若林が巧みに“山里のどす黒さ”を引き出し、それを山里が最高級の語りで打ち返ていく「たりないふたり」を感じる鮮やかな漫才が繰り広げられる中、後半に移るにつれて核となる部分が現れてくる。

 若林が「物語るな!熱く語るとか、古いのよ。もっと抜かないと…」と切り出すと、今の時代に求められているとされる“抜き方”について話題が移る。山里にレクチャーする側であるはずの若林による“魂の叫び”も飛び出しながら、1時間半におよぶ漫才が大団円を迎えた。漫才を見届けた高橋は「後半に関しては、目から涙が出るというよりは、毒が出ているのかな…みたいな。たりふたの魂を感じました」と、今の流れに抗う“たりないふたり”を評する見事なコメント。森本も「後半は、やっぱたりないふたりだなってところがたくさんあった。『だが情2』ありそうだなっていうくらいの熱量だった」と声を弾ませた。

 さて、当の2人はどう感じていたのか。Huluの特別版では、早速反省から入る山里、笑いを交えて感想を口にする若林の姿が映し出されている。2人そろって行われたインタビューでは、山里が「たりなさは変わっていると思うんです。若ちゃんが提案してくれたことが(漫才のテーマにもなっているが)今回、2人が一番伝えたかったのって、あそこだった」と口にすると、若林も「『こういうことない?』って聞いたら『わかる!』みたいになって。自分ひとりしか思っていないことかなと思っていたら、同じように感じているんだって。4年半空いていますから、なんか最初に(山里に)会った時のことを思い出して」と原点を思い返す漫才になったと振り返った。

 2人への思いを込めて「たりないふたり」というタイトルの楽曲を発表したCreepy NutsのDJ松永は、『明日のたりないふたり』の告知動画の中で、このような言葉を残していた。「あんな人間味が出たエンターテインメントを即興でできるのは、人間業じゃない。異次元すぎて処理できないんですよ。積み上がった歴史なんですよ。告知に落とし込むのは無理です。ごめんなさい。オレらの存在自体が感想だよね」。2021年に発表されたCreepy Nutsの楽曲「のびしろ」の歌詞ではないが、今の時代に覚えたいことのひとつと“されている”「抜き方」に向き合いながらも、2人らしく笑いに変える姿には、多くの人が込み上げてくるものがあるだろう。脂が乗りに乗った2人だからこそ、まだまだのびしろしかない「たりないふたり」の真骨頂がそこにはあった。