ソニー・ミュージックエンタテインメント執行役員 南塚 雅代氏(サステナビリティグループ代表)
ソニー・ミュージックエンタテインメント執行役員 南塚 雅代氏(サステナビリティグループ代表)

 ソニーミュージックグループでは、エンタテインメントを通じて持続可能な社会の実現を目指し、「環境・社会貢献」「アクセシビリティ」「多様性」「人権の尊重」の4つを柱に、祝い花を再活用する「Rebloom Flower Project」、アーティストやクリエイターとそのスタッフのメンタルヘルス支援「B-side」など多岐にわたるサステナビリティ活動を展開している。2023年4月からサステナビリティグループ代表を務める南塚雅代氏に、総合エンタテインメントカンパニーならではの活動のロードマップや成果、今後のビジョンを聞いた。

【写真】結束バンドとコラボした祝い花の再活用ワークショップ

■サステナビリティに特化した部署設立の背景

――ソニーミュージックグループでは2022年にサステナビリティグループを発足されていますが、サステナビリティに特化した部署を立ち上げた経緯、背景からお伺いできますでしょうか。

【南塚】 もともとは、広報・CSRグループ(現 広報グループ)が25年前から教育支援活動を行ってきたのが背景にあります。教育支援活動の中に会社訪問プログラムがあり、修学旅行や企業訪問で来社される学生に授業をしたり、学校に行って出張授業をしたり、オンラインでつないで遠隔授業をしたりして、音楽業界の仕事やアニメ業界の仕事を伝える授業を行ってきました。近年、社会全体やソニーグループでもサステナビリティ活動がフォーカスされてきたことから、ソニーミュージックグループとしてもしっかり本腰を入れていこうと、2022年7月にサステナビリティグループを設置しました。

――どれくらいの人数で構成されている部署なのでしょうか。

【南塚】 立ち上げ当初は2人でしたが、現在は7人ほどの体制です。主にサステナビリティ活動を推進するグループと、ESG(Environment/環境、Social/社会、Governance/企業統治)に関わる情報開示等の対応を担うグループの2つに分かれています。

 サステナビリティ活動を推進するグループは、事業会社と連携して活動を支援したり、自分たちでエンタテインメント性のある取り組みを立ち上げたりしています。かたやESGのグループは、当社事業によって発生する地球温暖化の原因となるGHG(温室効果ガス)排出量の算出・開示など、レポーティングにフォーカスしているチームです。私がサステナビリティグループにかかわるようになったのは2023年4月からになります。

――ソニーグループの一員として担われているサステナビリティ事業もあるのでしょうか。

【南塚】 やはり我々はエンタテインメントの会社ですので、IPやコンテンツと連携した活動というのは、ソニーミュージックグループならではという部分で意識して取り組んでいます。

■4つの重要課題とロードマップ

――ソニーミュージックグループのサステナビリティ活動における目標と、それを達成するためのロードマップを教えてください。

【南塚】 ソニー・ミュージックエンタテインメントのマテリアリティ(重要課題)は、1つ目が「環境・社会貢献」、2つ目が「アクセシビリティ」、3つ目が「多様性」、4つ目が「人権の尊重」です。それぞれロードマップを作って推進しています。

 まず、2023年は「社内啓発」をテーマにスタートし、外部講師を招いた社内セミナーを実施したり、「多様性」という点では、LGBTQ+に関する理解促進を目的にハンドブックを作って社内に配布するなどしました。また、グループ会社のソニー・クリエイティブプロダクツは、PEANUTSの取り組みの一つとして、スヌーピーと一緒に街や海などをきれいにする全国巡回クリーン活動「SNOOPY Loves NATURE“Team up!”」を始めました。このほかにも、ピーターラビット(TM)と全国のおもちゃ美術館とのコラボレーションで子どもたちに木のおもちゃの温かみを一緒に体験していただく「木育」のワークショップも実施しました。

 2024年度は「ナレッジ強化」をテーマに据え、さまざまな取り組みを行いました。大型施策としましては、日向坂46が音楽ライブにサステナビリティの要素を多分に取り入れた「ひなたフェス2024」を宮崎のサンマリンスタジアム宮崎で行い、2日間で4万人を動員しました。

 このイベントではソニー・ミュージックレーベルズ(以下、SML)とソニー・ミュージックソリューションズ(以下、SMS)が主導し、いくつかサステナビリティにフォーカスした取り組みを行いました。宮崎大学のソーラーパネルで生成された電力をトヨタの電気自動車(EV)に給電し、ブースで使用する全電力をEVからの給電でまかなうという太陽光エネルギーの活用を行ったり、飲食ブースでは地産地消のレストランに出展していただいたり、フェスの翌日には、スヌーピーと日向坂46のメンバーがファンと一緒にゴミ拾いをしたりと、楽しみながらサステナビリティに触れていただく機会をつくりました。

 また、2024年6月には、フラワーロス問題への取り組み「Rebloom Flower Project」をスタートしました。日本サステナブルフラワー協会さんと協力して、ソニー・ミュージックアーティスツ、SML、アニプレックス(以下、ANX)に関連するライブ/イベントに贈られた祝い花を回収し、アップサイクル(廃棄される予定のものに新たなデザインや価値を加えて再活用)するものです。ドライフラワーにしてライブやイベントの装飾にしたり、キャンドルやポプリ、香水などのギフトにしたりと事例が増えてきました。

 そして、2025年度は「創発」がテーマでした。目指していたとおり、事業会社主体で創発するサステナビリティの施策が出始めてきました。我々が行っている教育支援とは別に、SMLが主体となって、子どもの社会課題に取り組む支援団体との協業により、子どもたちの体験格差を支援する音楽教育プロジェクトを2025年3月末にスタートしました。プロデューサーやA&Rが学校や家庭以外の子どもたちの居場所である支援団体の拠点を訪問し、音楽ツールを使って音楽を作る楽しさを伝えるもので、将来、音楽業界で働くことを志してくれるような、未来のクリエイターをサポートすることも含めて始めました。

――部署発足から3年が経ちましたが、順調に進捗されているようですね。

【南塚】 まだまだできることがあると思っていますが、年々進捗していると思っています。先ほど申し上げた事例のほかにも、ミュージックレインというマネジメント&レーベルがファングッズの使用済みタオルをライブ会場で回収し、指定工場でリサイクルするプロジェクト「REBORN COTTON PROJECT」に賛同し関係各所とともに実行したり、SMSのクリエイティブチームが「Creative Vision Project」を推進したりと、それぞれの事業会社で創発し始めていますので、グループ内でのサステナビリティへの認知は行き渡りつつあると思います。若い世代も関心が高いので、今後もエンタテインメントを通じて広げていければと思っています。

■祝い花を再活用「Rebloom Flower Project」広がる

――それでは、中でも注力されている活動や成果が上がってきた具体的な事例をいくつかご紹介いただけますでしょうか。

【南塚】 成果があがっている事例としましては、先ほどもお話ししました祝い花のアップサイクルプロジェクト「Rebloom Flower Project」ですね。2025年10月の時点で合計約1.3トンのお花を回収し、再活用しています。2025年4月にはソニーミュージックグループを中心としたCENTRAL実行委員会が、都市型フェス『CENTRAL MUSIC & ENTERTAINMENT FESTIVAL 2025』(以下、『CENTRAL』)を横浜で初めて開催したのですが、そのイベント内でANXが製作を手掛けるアニメ『ぼっち・ざ・ろっく!』とコラボし、結束バンドのツアーで回収した祝い花を活用してポプリを作るワークショップを実施しました。

 最近ではグループ内のアーティストだけでなく、他社の所属アーティストの公演にも活用していただいたり、企業側から参加させてもらえませんかというお話をいただけるようになったりと、広がってきていることを実感しています。

――ご担当者にお話を伺ったことがありますが、相当地道に回収作業をされていらっしゃるようですね。

【南塚】 本当に地道な積み重ねです。ライブやイベントが終了後、お客様が帰られたあとで、スタッフが日本サステナブルフラワー協会のスタッフさんとともに、お花を傷つけないように丁寧に回収しています。贈り物ですので、アーティストやマネジメントの意向で回収しない公演もありますし、回収する場合もファンから贈られた祝い花は回収しないようにするなど、スタッフは配慮しているようです。

――そのほかにも注力されている施策はありますでしょうか。

【南塚】 「サステナビリティDay」という社内啓発イベントを2024年から実施し、2025年11月28日に2回目を開催しました。展示や体験を通じてサステナビリティを取り入れるための気づきや問いになればという目的で始めたイベントです。

 「その人のための工夫が、みんなの感動につながる」をテーマに、聞こえない/聞こえにくい方や、日本語を母国語としない方々へのアクセシビリティに焦点を当てた実証実験ライブとして、昨年も実施したコントに加え、今回は落語と朗読劇を実施しました。立川志の春師匠の落語では、高座の後ろにオリジナル字幕装置を設置し、耳でも目でも楽しめる新感覚の舞台を作ったり、朗読劇では映像に字幕と手話パフォーマンスを融合させたり、コントではキャラクターの声が可視化される演出を取り入れました。1回目で課題があった部分や字幕の付け方一つにしても、何回も何回も試行錯誤してブラッシュアップしたことで非常に好評でしたので、今後も続けていきたいと思っています。

■パッケージの環境負荷軽減推進への課題

――その「サステナビリティDay」では、環境配慮型パッケージが展示されていました。ソニーが開発した環境に配慮した紙素材「オリジナルブレンドマテリアル」などを使用したディスクトレイをSMSが開発し、既存のプラスチック製のトレイに対し、石油系プラスチックを約97%削減したものだということで、すばらしい取り組みだと思いました。一方で、採用されているアーティストがまだ限られているように思いましたが、採用事例を増やすための課題はどこにあるとお考えでしょうか。

【南塚】 まさに今、我々が取り組んでいる課題です。一つは認知ですね。こういうパッケージがあるということは、テレビやWEBメディアで取り上げていただいたりして少しずつ認知が広がってきていますが、まだ足りていない部分です。社内に関しては、社内イベントで紹介されたり、リリースを管理しているチームのほうで声がけをしてもらったりして認知は広がっていると思います。

 もう一つの課題はデザイン面です。複雑な色味が出ないといった制限が出てしまうため、「サステナビリティのことも考えて取り入れたいんだけど、こういうデザインができないとちょっと…」ということで採用に至らないケースがあります。

――音楽業界はパッケージとライブという主力事業が環境問題とは切り離せない課題だと思いますので、もっと広まるといいのにと思った取り組みでした。

【南塚】 おっしゃるとおりですね。我々の事業でいうと、パッケージとアーティストグッズ、特に今非常にファンに人気のあるアクリルスタンドもプラを使用していますので、グッズ全体に関しては、環境に優しい素材を徐々に取り入れていくことをグッズのチームと話をしています。製造、物流から出る電力使用や廃棄についても、製造・物流工場の建屋に太陽光エネルギーのパネルを設置して電力消費を抑えて自己託送するなどしています。ライブホールはどうしても電力消費量が高い事業ですので、Zeppでは再生可能エネルギー100%で運営するなど、環境に負荷がかからないよう配慮しています。

■利用者増えるメンタルヘルス支援

――コロナ禍の2021年9月からは、アーティストやクリエイターとそのスタッフのメンタルをケアするプロジェクト「B-side」をスタートされ、これも興味深い取り組みですが、利用状況はいかがですか。

【南塚】 対面やオンラインで医療相談や専門カウンセラーによる個別サポートなどを行っていますが、音制連(日本音楽制作者連盟)と利用契約をするなどして昨対では27%ほど利用者のアカウントが増えています。10月10日の世界メンタルヘルスデーにはトークイベントを行い、2024年には西川貴教さん、2025年に小栗旬さんに出演していただいたり、ポッドキャストにも著名な方に出演していただいたりと、興味深いお話をしていただくことで認知が広がってきたと感じています。

――利用者の反応は届いていますでしょうか。

【南塚】 アーティストだけではなく、携わっているマネージャーやスタッフにも体験でカウンセリングを試してもらっているのですが、実際に受けてみると「すごくイメージが変わった」という声が多数届いています。日本ではまだまだカウンセリングというとハードルが高いところはありますが、「もうちょっと気軽に“予防”として利用するのもいいんだな」という感想も聞かれました。実際に私も初めて体験したときには抱いていた印象とは全く違って、健康診断に行くような感じで気軽に利用できるようになればいいのにと思いました。

――このほか、2025年9月末には、ソニー・ミュージックエンタテインメント、アミューズ、エイベックス、ポニーキャニオンの4社合同プロジェクトとして、都内の中学校でキャリア教育プログラムも開催されています。他社や異業種との連携との成果や、今後の展望があれば教えていただけますでしょうか。

【南塚】 合同サステナビリティアクション「ENT NEXT ACTION」は4社でスタートしまして、毎月定例ミーティングを行って各種アクションを企画しています。第1弾としてキャリア教育プログラムを実施し、各社の代表者が仕事紹介やトークセッションを行い、DJ KOOさんの講演も行われました。まだお話できる段階ではないのですが、来期に向けて新たな企画も走り出しています。この4社の取り組みのほかにも、外部パートナーとの連携を増やして新たな企画を立ち上げていければと思います。

■総合エンタテインメントカンパニーならではの取り組みを模索

――冒頭にロードマップをお話いただきましたが、2026年のテーマや展望をお聞かせください。

【南塚】 2026年のテーマは「浸透」「定着」となるかと思います。2025年の活動の延長にもなりますが、サステナビリティは範疇が広いので、どういう活動なのかわからないというような方々にも、楽しさ、親しみやすさを入口にして認知をさらに広げて浸透、定着させていければと思っています。

――サステナビリティは聞きなじみのない用語が多いですし、CO2◯トン削減と言われてもピンとこない部分もあるかと思いますので、楽しさ、親しみやすさというところは、重要なポイントですよね。

【南塚】 そうですよね。そこはやはり、総合エンタテインメントカンパニーならではのサステナビリティの取り組みを模索しながら続けていきたいなと思います。

――今後取り組んでいきたいこと、業界に広げていきたいことがありましたらお聞かせください。

【南塚】 まず、社内に広めていきたいこととしては、人事と連携して実施している障がい当事者の方にも一緒に参加いただくインクルーシブデザインのワークショップです。事業につながるような学びが得られると感じていまして、既に役員には研修として受けてもらったのですが、「すごくよかった」「今までの研修で一番よかった」という声も聞かれました。できればたくさんの社員に受けてもらえるようにしたいと思っています。

 音楽業界の方々には、先ほどもお話したメンタルヘルス支援の「B-side」をもっと利用していただければと思っています。認知を広めるとともに、健康診断だと思って気軽にカウンセリングを受けていただけるような環境作りを進めていきます。

 あとは、2回目の『CENTRAL』(2026年4月3日~5日、横浜・Kアリーナ横浜、横浜赤レンガ倉庫、KT Zepp Yokohama、臨港パーク)でもサステナビリティをしっかり実装していくこと。そして、25年継続している教育支援活動を内容も含めて拡充することで、学生がエンタテインメント業界に少しでも興味を持ってもらえるようになるとうれしいなと思っています。

南塚 雅代(みなみづか・まさよ)氏 略歴
ソニー・ミュージックエンタテインメント 執行役員
広報グループ代表、サステナビリティグループ代表、リスクマネジメントグループ代表、ダイバーシティ 担当
1990年SME(当時の株式会社EPIC・ソニー )に入社。洋楽、邦楽宣伝、新規事業開発部門を経て、2023年より広報・サステナビリティグループへ異動。