フィギュアスケート女子フリーの得点を確認し、天を仰ぐ坂本花織選手(中央)。右は中野園子コーチ∥2月19日、ミラノ(共同)
フィギュアスケート女子フリーの得点を確認し、天を仰ぐ坂本花織選手(中央)。右は中野園子コーチ∥2月19日、ミラノ(共同)

 歌人俵万智さんの著書に、父親の思い出話がある。子どもの頃、100点を取ったテストを得意げに見せると、言われたそうだ。

 「100点というのは、自分の分かっていることしか出なかったっていうことだ。だからお父さんは、100点はあまり嬉(うれ)しくなかったなあ」。父はさすが物理学者だけあって考えることが違う。100点に足りなかった分が新たな学びとなり、糧になると伝えたかったのだろう。

 この人はジャンプの大技がない自らの足らざるを知り、持ち味である演技の質と完成度を磨いてきた。日本フィギュアスケート女子のエース、坂本花織選手。競技人生の集大成として臨んだミラノ・コルティナ冬季五輪はあと一歩で悲願かなわず、涙の銀メダルに終わった。

 武器にしてきた後半の連続ジャンプが決まらず、「なぜああなったのか、分からない」。メダルの色というよりは、100%の力を出し切れなかった悔しさからくる涙だったろう。幼少期から指導してきた「厳しめのママ」こと、中野園子コーチは悔しさをかみしめながら、引退して次のステップに進むまな弟子を鼓舞した。「コーチになった時に『頑張ってまたやっていこう』という力を残す意味で、これはいい位置なんだと思う」。

 100点の結果が必ずしもいいとは限らない、目指すゴールはまだ先にあるから。メッセージとともに、金メダリストを育てる夢が託された。(史)