政府は19都道府県に発令中の新型コロナウイルス緊急事態宣言と8県のまん延防止等重点措置について、30日の期限で全面解除する方針を固めた。複数の関係者が27日、明らかにした。宣言解除後の重点措置への移行も見送る見通し。菅義偉首相は28日に衆参両院の議院運営委員会に出席して対応を説明した後、対策本部会合を開いて正式決定する。宣言と重点措置が全国のどこにも出ていない状況は4月4日以来、約半年ぶり。解除地域の飲食店への時短要請は知事判断で可能とする。
首相は27日夕、西村康稔経済再生担当相、田村憲久厚生労働相らと官邸で協議した。その後、記者団に「コロナ感染者は大幅に減少し、状況は改善している。明日、専門家の分科会に諮って政府として最終決定する」と表明した。「今後も高い警戒感を持ちながら、飲食などについて段階的に緩和を行っていく必要がある」とも述べた。
政府は宣言を解除した地域に関し、認証された飲食店は午後9時まで、それ以外の店舗は午後8時までを目安に営業時間短縮を求める方向で調整している。酒の提供も認める。いずれも知事の判断で制限や緩和が可能で、期間は1カ月を想定している。時短要請に応じた飲食店に協力金を出すことを基本的対処方針に明記する方針だ。
1日当たりの新規感染者数は、感染力の強いデルタ株の影響で8月のピーク時には2万5千人を超えたが、その後は減少。最近は3千人程度まで減少した。
自民党の森山裕国対委員長は27日、立憲民主党の安住淳国対委員長と国会内で会談し、新型コロナ対応に関する28日の国会報告に首相が出席すると伝えた。出席理由に関し「緊急事態宣言の大きな節目になる」と記者団に語った。
加藤勝信官房長官は記者会見で、宣言を解除した際の対応について「現時点で重点措置を適用してほしいとの具体的な要望は都道府県から出ていない」と語った。
ワクチン接種条件 自宅待機10日間に
加藤勝信官房長官は27日の記者会見で、新型コロナウイルスの水際対策として帰国者や入国者に求めていた14日間の現行の自宅待機期間について、10月1日からワクチン接種済みの場合は10日間に短縮すると発表した。停滞する社会経済活動を後押ししたい考えだ。
対象となるのは入国後に3日間の施設待機を求めたり、施設待機の必要がなかったりする感染状況が落ち着いている国・地域。施設待機3日間の対象国・地域に関しては施設待機も免除する。
一方、感染状況が厳しい施設待機6日間、10日間が求められる国・地域は、14日間の自宅待機が維持される。今回の対策緩和は、水際措置を段階的に見直していく上で最初の取り組みだとした。
緩和対象となるのは、米ファイザー、モデルナ製や英アストラゼネカ製のワクチンを接種済みで接種証明書(ワクチンパスポート)を持っている入国者。10日目に検査をして陰性が確認できれば、待機解除とする。
往診や外来 診療報酬増
コロナ、抗体カクテルも
政府は27日、自宅で療養する新型コロナウイルス患者を医療機関が往診したり、重症化を防ぐ抗体カクテル療法を行ったりした場合の診療報酬の加算を現行の3~5倍に増やす方針を固めた。コロナ患者の外来診療も報酬を引き上げる。28日から実施する。
流行第5波の医療逼迫(ひっぱく)で自宅療養中の死者が相次いだ反省を踏まえ、冬場の感染再拡大に備えて在宅医療や外来での対応を拡充する狙いがある。
往診は現在の加算9500円を3倍の2万8500円に引き上げ、抗体カクテル療法を実施した際は5倍の4万7500円とする。訪問看護や訪問の服薬指導の報酬も手厚くする。
コロナ患者の外来診療には9500円の加算を新設。カクテル療法に対応した場合は3倍の2万8500円を認める。そのほか、感染疑いの患者を診る「診療・検査医療機関」(発熱外来)が自治体のホームページで医療機関名の公表に応じれば、現行で診療1回当たり3千円の加算を5500円に増やす。
一方、全患者を対象とする診療報酬の上乗せ特例措置は9月末の期限で終える。10月からは、院内の感染防止策にかかる年末までの実費を病院と有床診療所で10万円、無床診療所は8万円、薬局などは6万円を上限に補助する制度に切り替える。
イベントでも実証実験 スポーツ・音楽 制限緩和に向け
西村康稔経済再生担当相は27日、新型コロナウイルスワクチンの接種証明などを使ったイベントの人数制限緩和について、プロ野球やサッカーのJリーグなどのスポーツイベントでも実証実験を行う考えを示した。実験は10月中にも始まる見通しで、複数の音楽ライブ会場でも10月中に実施する方針だ。
東京都内で開いたスポーツ関係者との意見交換の場で、西村氏は「今後、調整を進めて適切なタイミングで実証を行っていきたい」と述べた。参加したJリーグの村井満チェアマンは早ければ10月1日にも実験を開始する意向を表明。日本野球機構(NPB)の井原敦事務局長も10月中に始めたいとの考えを示した。
意見交換後に取材に応じた井原氏は「感染状況がどのように変遷していくのか誰も読めないので、状況に即してどのような緩和ができるか内容を説明した」と述べた。
西村氏は音楽業界や舞台の関係者とも意見交換した。音楽ライブの主催業者らでつくる「コンサートプロモーターズ協会」の中西健夫会長は取材に対し、10月中に複数の音楽ライブ会場で実証実験を行うと明らかにし「ある程度大きな会場、アリーナクラスで実験をしたい」と述べた。具体的な方法や開催場所は検討中という。
緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の対象地域では、イベントの観客数は上限5千人となっている。解除されれば経過措置として人数上限は1万人となる。政府はワクチンの2回接種済証や検査の陰性証明を活用した「ワクチン・検査パッケージ」を使い、観客数の制限を緩和する実証実験を検討している。
政府は飲食店などでも行動制限緩和の実証実験を10月から順次、実施する構え。大阪府など13自治体が応募している。