岸田文雄首相の所信表明演説に対する代表質問が衆院本会議で始まった。衆院選の前哨戦となる質疑は「成長と分配の好循環」を強調する首相と、所得・消費税の減税を主張する立憲民主党の枝野幸男代表が分配政策を競い合う構図となった。

 新型コロナウイルス禍からの暮らし、経済活動の再生が重要テーマとはいえ、与野党双方が国債発行を当てにして恒久財源の議論の後回しでは、将来世代へのツケ回しを一層増やしかねない。選挙前最後の国会論戦となる残りの代表質問では、コロナ後の財政健全化まで含む責任ある論戦を各党に求めたい。

 コロナ対策を巡り枝野氏は「私たちは費用を国が負担し全入国者を10日間隔離する。新規感染者の周囲に幅広く、速やかに公費でPCR検査できる体制を整える」と強調。一方、首相は水際対策、検査強化の必要性は認めつつ「病床と医療人材の確保など対応策の全体像を早急に示す」と述べるにとどめ、具体論を示す姿勢は枝野氏の後塵(こうじん)を拝したと見ざるを得ない。

 コロナ禍の緊急経済対策については、首相が自民党総裁選を通じ数十兆円規模の事業者支援などを訴えてきた。枝野氏は年収1千万円程度までの個人への時限的所得税免除や、その後の消費税5%への時限的減税を主張した。いずれも目の前の困窮する個人や事業者を助けるためとはいえ財源は国債発行頼みだ。税制見直しで捻出する方策も当然検討すべきだろう。

 これに関し枝野氏は、所得税の最高税率を50%に引き上げ、原則20%の定率である金融所得課税も30%を視野に上げると表明。だが首相は総裁選で言及した金融所得課税の見直しを「優先順位が重要。賃上げに向けた税制、下請け企業対策の強化などから始める」と語った。株式市場への影響を懸念したとはいえ、トーンダウンに国民は不信感を抱くだろう。

 首相が目指すと言う「成長と分配の好循環」を巡っては、枝野氏が「好循環の出発点は適正な分配だ。私たちは『分配なくして成長なし』だ」と強調。首相は「成長なくして分配できるとは思えない。まず成長を目指す」と反論した。双方とも税制による賃上げ誘導、公的助成を伴う最低賃金引き上げなどを主張するが、ここでも財源論を欠いたままでは「ばらまき」との批判を逃れない。

 一方、安倍・菅政権からの「負の遺産」について枝野氏は「私たちは日本学術会議人事で任命拒否された6人を任命する」と述べたほか、森友・加計学園、桜を見る会問題の真相解明、公文書の隠蔽(いんぺい)、改ざんの根絶を目指すとした。しかし首相は学術会議人事を「一連の手続きは終了した」と述べるなどすべて結論が出ていると一蹴。自身が約束した「国民が納得する丁寧な説明」とは程遠い姿勢と言うべきだ。

 また、国民の関心が高いジェンダー問題で枝野氏が「私たちは選択的夫婦別姓制度を早期に実現する」と述べ、同性婚を可能にする法制度も目指すと表明。首相は夫婦別姓制度、同性婚いずれについても家族の在り方を揺るがしかねず国民の意見は割れているとして導入に消極姿勢だった。

 経済政策やコロナ対策では対立軸が見えにくくなった。ゆえに野党は不祥事やジェンダーで攻め込んだ形だ。有権者の心にどう響いたかは程なく衆院選で示されるだろう。