政府は、新型コロナウイルスワクチンの希望者への接種が完了する11月ごろをめどに、緊急事態宣言発令中の地域でも人々への行動制限を緩和する方針を固め、実施に向けた実証実験に入った。

 ワクチンの2回接種完了が全人口の6割を超えたことを踏まえれば、ウィズコロナの経済活動を本格化させていく検討も必要だ。しかしワクチンを2回打っても「ブレークスルー感染」の懸念は残り、秋から冬にかけては感染拡大の「第6波」到来の可能性がある。

 政権は、衆院選に向けトンネルの先の「光明」を見せたい思惑が先に立ち、肝心のコロナ抑え込みの手が緩むようなことがあってはならない。今何より優先すべきは医療・保健体制の強化と人出抑制の継続、そしてワクチン接種率の上積みにより感染再拡大を防ぎ、止められなかったとしても最小限に抑えることだ。

 行動制限緩和は、ワクチン効果で感染者が増えても医療逼迫(ひっぱく)は起きにくくなるとの判断に基づく。ワクチン接種済証かPCR検査などの陰性証明の提示を求める「ワクチン・検査パッケージ」を活用し、緊急事態宣言下でも都道府県をまたぐ旅行、大規模イベント開催、飲食店の酒類提供を容認する。「Go To トラベル」のような観光振興策も検討する。

 13道府県の飲食店、スポーツイベントなどで実証実験が順次始まり行動制限緩和はもはや既定路線だ。高齢感染者の重症化が減るなどワクチンは効果が出ている。治療薬も今の抗体カクテル療法に加え、飲み薬の開発が進みコロナ対策の手段は大きく改善した。2年近いコロナとの闘いで国民の我慢も限界に近く、元の日常を取り戻す道を探るべき時期ではある。

 それでもなお懸念はある。ワクチン普及後も人と人との接触を流行前の50%程度に減らせばコロナによる死者は季節性インフルエンザと同等の年間1万人程に抑えられるが、流行以前の生活に戻れば死者が10万人以上になると、政府の新型コロナ対策分科会は試算した。新たな変異株が拡大する可能性もある。

 専門家や医療界が慎重姿勢を崩さないのはそのためだ。分科会の尾身茂会長は、行動制限緩和が対策を緩めてもよいという誤ったメッセージになるとして「緊急宣言下にそういうことをすべきではない」とくぎを刺した。油断で第6波を招けば、一気に病床逼迫の状況に戻ってしまうからだ。

 これに関し、全国知事会は「国民の命が守られる医療体制確保が出口戦略の根幹」として検査、入院、治療の体制整備を政府に求める緊急提言をした。行動制限を緩めるなら、その前に医療体制を強化すべきだという指摘は的を射ている。

 同時に知事会は、第5波への対応を検証し第6波への備えにつなげるよう求めた。第5波到来は感染力の強いデルタ株拡大に夏休みの人出増が重なったためとされる一方、9月に入り急速に下火になった理由はワクチン普及のほかは専門家もよく分からないと言う。原因不明のままでは、第6波の防止策もつかめない。早急に検証すべきだ。

 ワクチン・検査パッケージがワクチンを打たない人への差別につながらないようにするのも不可欠だ。そもそもワクチン接種率がもっと上がらなければ、行動制限を緩和する前提が整わないことも言うまでもない。