マイナンバーカードを健康保険証の代わりとして使える仕組みの本格運用が始まった。だがシステム対応済みの医療機関は1割に満たない。多くの患者は当面、実際に利用できる場面が限られそうだ。政府は患者も医療機関も利便性が向上すると訴えるが、周知が行き届いているとは言いがたい。メリットが実感できるよう、分かりやすく説明する努力が必要だ。

 健康保険証としての活用はマイナンバーカードの普及策の一つ。政府は2023年3月末までにほぼ全ての医療機関での導入を目指すとしているが、今月20日時点で必要なシステム対応を完了させたのは全国の診療所、病院、薬局(計22万9018施設)のうち8・9%の2万362施設にとどまる。

 厚生労働省が主張する導入のさまざまなメリットは次の通りだ。

 まず病院などの窓口の受け付けがスムーズになるという。カードを顔認証付きの専用読み取り機にかざすだけで済むので、患者の待ち時間が短くなり、医療機関も労力が減るというわけだ。

 次に、医療費が高額になった際に自己負担の限度額を抑える高額療養費制度の手続きでは、いったん全額を支払った後に払い戻しを受ける手間が省けると強調。医療費控除の確定申告でも医療費領収書の管理が不要になるとして、カード所持者向けサイト「マイナポータル」の医療費通知情報の利用を勧める。

 厚労省はほかに、患者が同意すれば、処方された薬のデータや生活習慣病など特定健診の結果を医師や薬剤師が確認できるようになると説明。患者本人による閲覧も可能だ。情報を医療側も共有することで、患者が口頭で服薬履歴などを説明するのではなく、正確なデータに基づいて治療方針を立てられ、薬の重複処方や多剤投与を避けることにつながるという。

 もっとも、こうした説明を受けても多くの患者はピンとこないのではないか。カードを持ち歩いて紛失するのを心配する人もいるだろう。それに、これまでの健康保険証は今でもそのまま使えるから、現時点ではマイナンバーカードにあえて切り替える必要性は低い。そもそも、同カードの交付率自体が4割弱にすぎない。保険証として使えるように手続きを済ませたのは人口の4%程度にとどまる。

 医療現場の理解も十分とはいえない。小規模な施設ではデジタル化の恩恵がはっきりしないことや、継続的な管理に経費面の不安が残ることなどが理由だ。また、新型コロナウイルス対応と導入準備の時期が重なった上、半導体不足で機器の調達が難航し、システム導入が遅れた側面もある。

 政府が関連費用に補助金を投じて後押ししたことで、やっと6割近い医療機関がカード読み取り機の無償提供を申し込んだが、幅広い普及には医療機関側の納得を得ることが欠かせない。

 なにより大切なのは個人情報の保護だ。不正アクセスや情報漏えいがあってはならない。厚労省は今後、処方薬や特定健診のデータに加え、手術や移植、透析の履歴なども医療機関が確認できるようにする考えという。患者の同意が前提とはいえ、システム上で医療情報の統合が進むことへの懸念もあるだろう。患者に不安感を与えないよう情報セキュリティーには細心の注意が求められる。