新型コロナウイルスワクチンの3回目接種が国内各地で始まった。徐々に下がる感染予防効果を増強するのが狙いで、リスクが高いとされる医師らからは、接種を終えて安堵(あんど)の声が聞かれた。一方で、いち早く3回目が始まった欧米では新たな変異株「オミクロン株」の流行を懸念し、接種間隔の短縮などの動きが加速。日本医師会からは、接種の時期の前倒しを求める声が出ている。
「(前回から)半年たつと抗体が落ちるので3回目は極めて重要。さらに安心して診療ができる」。1日午後、医師ら12人が3回目の接種をした千葉大病院(千葉市中央区)の横手幸太郎院長は接種後、記者団にこう語った。
同病院には今も新型コロナ患者が入院しており、医療従事者の間では、ワクチン効果が下がって感染することへの不安は強い。横手院長はオミクロン株については「まだ分からないことが多々あるが、日ごろの感染対策とワクチンで一定の抑制効果はあるだろう」と期待を込めた。
2回目の接種から時間がたつと効果が落ちるとの報告は相次いでいる。米国の研究では、ファイザー製の2回目接種から1カ月以内は88%だった感染予防効果が5カ月後には47%に低下した。モデルナ製では、90%を超えた感染予防効果が4カ月後には80%前後だったとの研究結果がある。
3回目の効果はどうか。イスラエルでの大規模な調査では、3回目を打った人は、打っていない人に比べて入院したり重症化したりするリスクが大きく低下。モデルナ製では、感染を防ぐ中和抗体が2回目と比べて1・76倍に増えたという。
世界保健機関(WHO)は、発展途上国で医療従事者らへの接種が完了していない状況下で、先進国が追加接種に突き進むことに反対。テドロス事務局長は「(国際社会は)ワクチンの公平供給に失敗している」として、年内は見合わせるよう訴えるが、顧みられていない。
欧米では、感染の拡大やオミクロン株の出現を受けて、3回目接種を加速している。フランスでは11月27日から、対象者を接種完了から5カ月が経過した18歳以上の全成人に拡大した。それまでは完了から6カ月を経過した65歳以上や医療関係者らに限っていた。
英国は、政府が2回目と3回目の間隔を6カ月以上から3カ月以上に短縮すると発表。米国ではバイデン大統領が11月29日、「新変異株に対する最良の防御策は、追加接種を受けることだ」と呼び掛けた。
日本では原則として2回目から8カ月たった人から打っていく。だが日本医師会の中川俊男会長は1日、オミクロン株の急拡大を懸念して「体制が整った自治体から前倒し接種を考える必要が出てきた」と発言するなど、前倒しを希望する声が一部に根強い。
国際医療福祉大の松本哲哉主任教授(感染症学)は「できれば急いだ方が良いのは間違いない」とする一方で、「言うのは簡単だが、実際にやるのは大変だ」と本音を漏らす。
北里大の中山哲夫特任教授は「接種間隔をどう設定するにしても、重症化しやすい高齢者や持病のある人、免疫不全の人を中心にまずは接種していく必要がある」と強調。一方で、若者など重症化する恐れが少ない人については「感染が落ち着いている状況であれば慌てて打たないといけないわけではない」と話した。