「和牛といえば鳥取」と呼ばれる産地を目指し、県産和牛の生産と改良に力を入れる鳥取県で、全ての雌子牛の産肉能力を算出する遺伝子検査が進められている。全県単位で雌子牛の個体データを算出するのは全国初。頭数が少ないからこそできる取り組みで、能力の高い牛を地域に残して優良な牛の生産につなげる。本年度から子牛を選ぶ目安としてデータを競りに提供し、市場の活性化も図る。
遺伝子検査は、県和牛生産者連絡協議会が県畜産試験場(鳥取県琴浦町)の協力を得て2020年10月に始めた。生後1~3カ月の全雌牛の血液を採取し、DNAを分析する。「ゲノム育種価」と言われ、蓄積してきた1万頭以上のデータと照合し良質な子牛を判別する。
従来は母牛が産んだ子が育ち、その枝肉成績から母牛の能力を推定していた。4~5年の期間がかかり、その間に能力の高い雌子牛が競りに出され、県外に流出する課題があった。
雌子牛の全頭検査により、個体の能力を生後数カ月で把握できるため、生産者が競りに出すか出さないか判断しやすい。能力の高い子牛は繁殖雌牛として育て、次世代のスーパー種雄牛の誕生につなげるほか、肥育農家が求める能力の高い子牛を増やすこともできる。
肥育農家の参考にしてもらおうと、今月からは、競り名簿に子牛のゲノム育種価を表示する。個体ごとの精度の高いデータを示すことで、市場の信頼が高まることが期待される。
県産和牛は17年の全国和牛能力共進会で種雄牛「白鵬85の3」の子牛が肉質日本一に輝き、評価を高めた。県中央家畜市場の20年の子牛取引頭数は去勢牛を含め2344頭で、100以上ある全国の市場で取引頭数は46位と少ないものの、1頭平均価格が80万円台を維持し全国首位となった。この春策定の県和牛振興計画では、さらなる飛躍を目指している。
県和牛生産者連絡協議会の木嶋泰洋会長(66)は「牛の頭数が少ない鳥取だからこそできる取り組み。レベルの高い牛群を地域に残し、『和牛王国』を復活させたい」としている。(福間崇広)