森友学園問題に関する公文書改ざんを強いられ、それを苦に自殺した財務省近畿財務局の元職員赤木俊夫さんの妻雅子さんが、国と当時の財務省理財局長で元国税庁長官の佐川宣寿氏に損害賠償を求めた訴訟で、国側は1億円余りの賠償請求を全面的に受け入れた。これで国との裁判は終結し、今後は佐川氏のみを被告として審理が続く。
国家賠償請求訴訟で国が請求をそのまま認めて終結させるのは極めて異例のことだ。雅子さん側によれば、大阪地裁で非公開の進行協議があり、その場で国側は突然、これまでの争う姿勢を転換。赤木さんの自殺と改ざんの因果関係、賠償責任を認めるとする書面を裁判所に提出した。
雅子さんは岸田文雄首相に「夫の自殺の真相を明らかにしてください」と再調査を求める手紙を出した。首相は「財務省に丁寧に対応することを指示した」と繰り返したが、それとは裏腹に非公開の手続きで賠償責任を認める不意打ちで訴訟を終わらせた。法廷で新たな証言や証拠が出る前に幕引きを図るのが得策と考えてのことだろう。
しかし逃げ切りは許されない。公文書改ざんという民主主義の根幹を揺るがす重大な不祥事の真相をうやむやにしては、将来に禍根を残す。首相は安倍、菅両政権が残した負の遺産と正面から向き合い、解明に向け調査と説明を尽くすべきだ。
雅子さんは昨年3月に提訴した。訴訟で国側に、赤木さんが改ざんの経緯を詳細に記録した「赤木ファイル」の提出を求めた。国側は「裁判上、必要ない」として1年以上も存否を明らかにしなかったが、裁判所からも促され、今年6月になり、ようやく開示した。
国有地が8億円余り値引きされて森友学園に売却され、開校予定だった小学校の名誉校長に当時の安倍晋三首相の妻昭恵氏が一時就任していたことから、野党は値引きとの関係を一斉に追及。安倍首相は2017年2月に「私や妻が関わっていれば、首相も国会議員も辞める」と答弁した。
直後から財務省で決裁文書の改ざんや学園との面会記録の廃棄が始まり、開示されたファイルには「本省の指示に従い、調書、経緯の原本を差し替え」「相手方に優遇したとみられる部分を修正」と改ざんの経緯が時系列で記されていた。赤木さんが本省の指示に抵抗したことをうかがわせる記述もあった。
今年11月には18年3月の赤木さんの自殺と公務との因果関係を認める公務災害認定の記録が人事院から開示され、法廷で、それまで明らかにされていなかった事実関係が少しずつ見えてきた。
しかし赤木さんの自殺と改ざんを巡る真相には程遠いと言わざるを得ない。財務省が18年6月に公表した調査報告書で改ざんなどの「方向性」を決定付けたとした佐川氏が具体的に、どのような内容の指示を出したのか、それを受けて理財局内では、どういうやりとりが交わされたのか―など肝心の部分は依然として分からないままだ。
訴訟終結を巡り森友問題への対応を問われた岸田首相は「真摯(しんし)に説明責任を果たしていかなければいけない」と答弁した。佐川氏との訴訟も含め、これから雅子さん側が求める情報開示に財務省などがきちんと応じるかどうか、しっかり目配りし、必要な指示を出していくことも求められる。