建設工事の受注状況を示す統計の調査票を、国土交通省が書き換えていたことが明らかになった。回答の提出が遅れた業者の受注額を二重計上していたことも分かり、ずさんな統計処理にあきれるばかりだ。

 会計検査院の指摘を受け、修正に動いたが、国交省は一切公表していなかった。同省の責任感と倫理性が問われる事態だ。

 書き換えられていたのは同省が都道府県に委託して毎月調査している「建設工事受注動態統計調査」だ。全国の1万2千業者を対象に毎月の受注額を報告してもらっている。回答期限に間に合わなかった業者の受注額は数カ月分をまとめて、回答が提出された月の受注額として処理していた。その際に業者の回答を消しゴムと鉛筆で書き直していたという。しかも毎月の調査では、未回答の業者に関しても、全体の受注額から推定した数字を集計していたため、二重計上が発生した。

 いつから書き換えが始まったのか。こうした手法が引き継がれてきたのはなぜか。2019年11月に会計検査院が問題点を指摘したが、同省は都道府県の担当者への書き換え指示をやめただけで、今年3月まで同省が自ら書き換えを続けた。その理由もはっきりしない。

 岸田文雄首相は「正当化したり、隠蔽(いんぺい)したりするためにやったわけではない」と言うが、具体的な経緯はまだ分かっていない。国交省は「悪意はなかった」と釈明している。しかし一連の書き換えやミスを公表しなかったことに言い訳の余地はない。

 建設工事の受注統計は、統計法で決まっている53の基幹統計の一つだ。国内総生産(GDP)に反映されるほか、中小企業支援を検討する際には不況業種の指定にも使われる。景気動向を知り、政策を検討するための重要なデータであるのは間違いない。

 統計にかかわる不祥事では、修正が遅れた理由として「統計の連続性維持」を挙げることが多い。しかし間違った統計を公表し続けることにどんな意味があるのか。国交省はやましさを感じなかったのだろうか。

 2019年以前の調査票は保存されていない。残っている調査票も、業者が記入した数字が消されているため、元に戻すのは難しいとの見方もある。大事な統計ではあるが、調査や集計の方法を見直した上で、新たな統計として再出発させることを考えてもいい。

 厚生労働省の「毎月勤労統計調査」の不正が3年前に発覚し、各省庁はそれぞれの統計を一斉に洗い直したが、それもすり抜けていた。政府の統計改革が本当に徹底していたのか、疑問が残る。

 政策立案を重視する中央省庁では、統計部門には日が当たりにくい。しかし経済や産業の実態を反映した統計をまとめるには、専門的な知識や経験が欠かせない。政策立案の根拠になるのはもちろん、重要な統計になればなるほど市場の注目度も高い。

 集計や数字の処理で、ミスが起きることもある。決まり切った作業と軽視するのではなく、産業の変化などに応じた点検や改革を怠らず、間違いが見つかれば直ちに公表するべきだ。

 政府は、法律の専門家らを含む第三者委員会で検証作業を始めるが、国交省の言い分をうのみにせず、徹底した調査で真相を究明してほしい。