大阪・北新地の8階建て雑居ビルで火災があり、20人を超す犠牲者を出す惨事となった。火元は4階の心療内科クリニックで、大阪府警は目撃証言などから殺人、放火容疑で捜査している。

 放火だとしたら許されない行為で、動機や経緯などを解明し刑事責任を追及するのは当然だ。それだけでなく、ここまで被害が拡大した原因を探り、対策を練ることが極めて重要だ。

 過去いくつもの事例を受け、消防法令の改正など対策が強化されてきたが、結果的に悲劇を防げなかった。捜査や調査から新たな教訓をくみ取るべきだ。二度と惨事を繰り返してはならない。

 目撃証言によると、クリニックの受付近くで、男が暖房器具のそばに紙袋を置いて、蹴り倒したようだ。液体が漏れ出し出火したという。府警はクリニックに通院していた61歳の男を容疑者とみており、男は火災後に病院に搬送されている。

 36人の命が奪われた京都アニメーション放火事件(2019年)を想起させる状況だ。この事件では、殺人などの罪で起訴された男が事件直前にガソリンスタンドで約40リットルのガソリンを購入し、京アニ第1スタジオに侵入、社員らにガソリンを浴びせて火を付けたとされている。

 総務省消防庁は素早く対策に動き、事件の1週間後には容器に詰め替えてガソリンを販売する際の客の身元確認徹底などを事業者側に要請。翌20年には改正省令を施行して義務化し、悪質な違反には罰則も設けた。

 ガソリンは、車はもとより発電機の燃料などにも使われる日常品であり、流通を規制することは困難だが、販売時の対策が不正使用への抑止力になることが期待された。

 それでも大阪のビル火災は起きた。可燃性が高いであろう今回の「液体」の正体は何か。その入手経路で、新たに取り得る方策はあるのか。事実を踏まえて検証しなければならない。

 もう一つ、焼けたのはわずか25平方メートル程度、30分ほどで鎮圧された昼火事で、ここまで被害が拡大した理由をはっきりさせなければならない。19年の消防の定期検査では、防火設備の不備は確認されなかった。

 消防法などは、44人が亡くなった東京・新宿の歌舞伎町ビル火災(01年)翌年の改正で、抜本的に見直されている。

 階段などが段ボール箱やロッカーでふさがれ、避難経路として使えなかったことから、消防査察の実効性を高め、改善命令を出しやすくするなどし、従わない場合の罰金も引き上げられた。

 しかし大阪のビル火災では、避難経路の障害物などは確認されていない。ただ歌舞伎町ビル同様、階段は1カ所しかなく、火が出た受付近くのそばにあったため避難に使えなかったようだ。

 当日は心身の不調で休職中の人らの職場復帰をサポートする「リワークプログラム」の利用者が大勢が訪れていたとみられている。亡くなった人たちに目立った外傷はなく、一酸化炭素(CO)中毒死の可能性がある。小規模ビルに2カ所の非常階段を設置する義務はないし、スペース的にも難しいようだが、せめてCOの排気設備は設けられないものだろうか。

 今後明らかになるであろう事実も踏まえ、専門家による再発防止策の突っ込んだ議論が必要だ。