七尾湾にある「ぼら待ち櫓」。能登半島地震でも倒れなかった=9月29日、石川県穴水町
七尾湾にある「ぼら待ち櫓」。能登半島地震でも倒れなかった=9月29日、石川県穴水町

 江戸時代から伝わるとされるその漁法は、もっと古くからあったのではないか。石川県・能登半島の七尾湾にある「ぼら待ち櫓(やぐら)」。丸太で四角すいに組んだ高さ8メートルほどの櫓の上に座ってボラの群れを待ち、海底に張った網に入ると手繰り上げて捕る。のんびりしているようで魚影を見逃せない独特の漁だ。

 冬場でも穏やかな内海に、かつては40基あった櫓を使った漁法は1996年を最後に見られなくなり、今は観賞用に数基が残る。先月、能登半島を訪ねた際に穴水町の国道から見た櫓にどこか懐かしさを覚えた。江戸時代よりもはるか前、日本の原風景のように見えたからだ。

 その櫓を「有史以前の伝説による怪鳥ロックが巣に選んだ場所」と表したのは、1889年に能登半島を訪れた米国の天文学者パーシバル・ローエル。ロックは、中東やインドに伝わり『千夜一夜物語』や『東方見聞録』に登場する巨大な白い鳥のことだろう。

 冥王星の存在を観測と計算により予知したことで知られるローエルは83年に来日し、日本文化や思想も研究。小泉八雲と親交があり、著書『極東の魂』は、八雲が日本に興味を持つきっかけになったとされる。

 異国の偉人には怪鳥の住まいに見えたぼら待ち櫓は、昨年の元日に起きた能登半島地震でも倒れなかった。木組みの構造力学が働いたのか。その踏ん張りは能登の人々の強さに比例するのだと、まぶしく見た。(衣)